Aさんは営業という職種柄、直行直帰しやすかったこともあり、比較的スケジュールが調整しやすい方ではあった。それでも、たびたび嘘の理由で休むこと自体がストレスになっていた。だからこそ、勇気を出して上司に本当の理由を告げたのだ。上司はこう続けた。

「治療してまで子作りするって、すごい時代だよなぁ」

「自然にできないって、どこかからだが悪いの?」

「で、いつ頃、できそうな感じなの?」

 言わずもがな、不妊治療はいつ終わりがくるとも分からない。自分でもこれがいつまで続くのか、本当に授かることができるのかと不安に苛まれることも少なくないが、毎回「これが最後」と思って治療に臨んでいる。不妊治療についてあまりに無知な上司の言葉に凍りついたものの、その場は引きつった作り笑いで何とかごまかした。だが、その後一人になると無意識のうちに涙がこぼれた。子どもを自然に授かれない自分は“欠陥品”で、女性として失格だと言われたような気がした。

「不妊治療しているって話したら、“不妊治療って去勢手術のこと?”って職場のおじさんに言われたことがあります」

 と、話すのは、神奈川県在住のBさん(30代)。あまりの無知さにあっけにとられたが、それ以上に辛かったのが職場の人たちから「この人は何回も治療に行っているのに、なぜ子どもができないんだろう」という目を向けられることだった。

「治療で休ませてください」という言葉も、最初のうちはすんなり受け入れられていたが、何回も続くうちに『また休むのか』『いつまで続くのか』というネガティブな空気が漂い始めた。ちょうど時を同じくして、同じ会社に妊婦がおり、だんだんとお腹が出てくる光景を見ることもまた辛かった。

「一番辛かったのが、流産してから出社した時。産前産後の休暇は手厚いのに、なぜ流産には休暇がないのだろうと。出産する人は優遇されるのに、出産を望んで不妊治療する人に対するケアは一切なしで、仕方がないと言い聞かせながらも辛かった」(Bさん)

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