あるメガバンクの行員はこう懸念する。

「マネーロンダリング(資金洗浄)対策が厳しく求められている中、何を根拠に口座開設を良しと判断すればいいのか。規制を逃れるための偽装離脱ではないと誰が保証してくれるのか。万が一、口座を悪用された場合、責任はどう取るのか。疑問が尽きない」

 金融機関や世間には、こうした不安感が根強く存在するのも事実である。

 ただ、それ以前に、今回の警察庁の指示によって元組員の社会復帰が進むかは不透明な部分が大きい。なぜなら、実は同様の支援は以前から各地で行われてきたにもかかわらず、大きな成果には結びついていないからだ。取り組み自体もほとんど知られてこなかった。

 東京の3つの弁護士会は2018年4月、暴追センターの協賛企業で働く元組員に対して口座開設を支援する制度を設けた。離脱後の年数は関係なく、面談を重ねるなどし、ふさわしいと判断した人物を選ぶ形だ。

「勤務先は暴追センターの協賛企業である」「(当該の)元組員は、その企業で働いている」という2つの意味合いを持つ証明書を、暴追センターと協賛企業が連名で発行し、金融機関に提示して口座開設を依頼するものだ。

 だが、取り組みから4年。口座開設の要請に応じた金融機関はゼロだった……。

 口座開設支援制度の立ち上げに関与し、今回取材に応じた青木知巳、石塚智教、関秀忠の3弁護士。彼らが直面したのは、支援活動の目的がなかなか理解されず、時には暴力団の味方をしているかのように誤解されてしまう現実だった。

 暴力団組員・準構成員は11年の7万300人から、20年には2万5900人まで減った。このうち警察や暴追センターの支援で組を離脱したのは5900人で、支援を受けて就労したのはわずか210人にとどまる。

 関弁護士はこの事実を基に、支援活動の目的を説明する。

「これだけ多くの組員が離脱したということは、言い換えれば、元組員が一般市民のすぐ近くにいるかもしれない時代になっているということです。彼らが仕事にも就けず社会に居場所を作れないと、どうなるか。組に戻るか、アウトローやいわゆる『半グレ』の道に走るしかなく市民が犯罪に巻き込まれかねません。離脱者の口座開設支援などを通じて、元組員の居場所を社会に作ることは、個々の離脱者の人権救済の意味合い以上に、反社会的勢力に加担する者をさらに減らし、反社会的勢力との一切の関係遮断をさらに強め、市民の安全・安心をより強固なものにしようとする治安対策の側面が大きいと考えています」

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「将来の加害者をなくす」という取り組み