警察庁が今年2月、暴力団と関係を絶った元組員について、金融機関の口座開設を支援するよう都道府県警に指示した。一人でも多くの暴力団員を組織から離脱させ、元暴力団員の社会復帰を促すのが狙いだ。ただ、実は同様の取り組みは以前から行われているのだが、大きな成果には結びついていない。暴力団対策法(暴対法)や自治体の暴力団排除条例(暴排条例)で締めつけが強まり、離脱する組員が増える一方で、その後の暮らしをどうするのかという問題は更生と切り離せない。支援に携わる弁護士らが直面する現実と、元組員らの思いを取材した。
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現在、金融機関は暴力団排除条項に基づき、現役組員の口座開設には応じていない。さらに、組を離脱しても組員らの情報を登録したデータベースに残っていると、口座開設を断られるケースが多い。
だが今年2月、暴力団から完全に離脱し、暴力団追放運動推進センター(暴追センター)の「協賛企業」に勤めている元組員には口座開設の道が開かれることになった。面談などで組織から決別したと判断できた場合には、警察が金融機関に口座開設について連絡したり、その元組員を雇用している企業や暴追センターの職員が金融機関に同行し、口座開設を要請したりできることになった。同月、警察庁は都道府県と金融庁にこれを周知するように指示を出した。
足を洗って社会でやり直そうとする元組員、または足を洗いたいと願う現役の組員にとって、口座を持てないことは社会復帰への大きな壁になっている。口座が持てなければ住まいも借りられず、たとえ仕事を見つけても給与の振り込みもできない。そうした状況を逆手に取られて、組織から「離脱しても生きていけないぞ」などと、組から抜けるのを阻止する“脅し”に使われることもあるという。
この動きには賛否両論が飛び交った。人生をやり直すチャンスが広がることを肯定的にとらえる声もあれば、口座の悪用や法規制を逃れるための「偽装離脱」を懸念する指摘もあった。「どうせすぐ仕事をやめるのでは」「カタギの仕事ができるのか」など元組員の資質を疑う声もあった。