ここまで、とにかく「嫌いなことで、生きていく」について語りましたが、「好き」と同じくらい「嫌い」の熱量は強いのだと思います。私は虫が大の苦手ですが、YouTubeで制作が得意な動画のジャンルは虫です。虫取りのロケに行く際は、虫が大好きな少年やおじさんと一緒に行動します。フィールドに出ると、私は彼らと同じくらい瞬時に虫を発見します。虫が嫌いだから、どんなに上手に隠れていても存在を察知できるのです。

 動画にするときも、どこから見たら最も気持ち悪いか、どんな動きが気持ち悪いのかが分かるため編集がはかどります。嫌いなことを仕事にしても、作業が向いていると結果が出ます。全くお酒が飲めない人が、バーテンダーとして活躍するという事象に似ています。バーテンダーは正確な分量や方法で調合する技術が求められるため、酒が好きかどうかは、あまり適性に関係がないのでしょう。このような事象は非常に多くあります。鉄道が大好きなオタクの人々はたくさんいますが、鉄道会社で働く人に求められるのは、「正確に作業すること」「マニュアル通りに点検すること」「時間通りに行動すること」などの几帳面さやきめ細やかさです。鉄道が好きかどうかは、問われていないのです。YouTubeにおいても、ゲームが好きな人とゲーム実況に向いている人は、異なります。ファンでいることと、仕事としてメシを食っていくことは、取り組み方が異なるからです。

「好きなこと」は個性に関係してきますが、「嫌いなこと」も同じくらいに自分自身のアイデンティティーを形づくるものです。自分が活躍できる仕事を探す際、どうしても好きなことに目が行きがちですが、まずは自分が向いていることを的確に把握し、その作業があるならば自分が嫌いなことにも視野を広げるべきだと思います。

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