子ねこが成長してくると、さらにたくさんの母乳を求めます。母ねこは、充分な量の母乳を出すために、エサをたくさん食べなくてはなりません。足りない分は、自分の身体に蓄えられた脂肪からしぼり出すことになります。とはいえ、母ねこの多くはすでに出産した時点で、やせ細った状態で蓄えなどありません。お腹の皮が垂れ、乳首がむき出しの母ねこが、小走りにエサを探し回る必死の姿からは、母親の強さと、一途さを感じずにはいられません。
子ねこがめでたく離乳し、漁具倉庫から出てくる頃には、母親は骨と皮だけの痩せこけた状態になっています。ここまで無事に育った子ねこたちを、目を細めながら舐めてやる母ねこの姿は力づよく、そして何よりも美しくわたしの目には映ります。発情期のオスねこに見られるような荒々しいつよさではありません。自分の身体を削りながら、独りで静かに新しい命を産み落とし、そして育て上げる、動物の母親の持つ普遍的なつよさのようなものを、ノラねこの母親はわたしに見せてくれました。どんなにつよいボスねこであっても、もとはといえば、そのような母親から生まれ、育てられたわけですから、母ねこは最強といってもいいのではないでしょうか。
以前、飼いねこが子供を襲っている大型犬に猛然とダッシュして、体当たりをして子供を救った投稿動画が、ネットで話題となりました。そのねこは、体当たりのあと、逃げる犬を少し追いかけ、そしてすぐに引き返して怪我をした子供のもとに戻ってきました。自分よりも身体の大きな猛犬に立ち向かう勇気といい、瞬時の状況判断といい、大人の人間でもなかなかできることではありません。
子供を救った「タラ」ちゃんという名前の飼いねこは、6年前にその家で飼われ始めたメスねこだそうです。そしてタラちゃんに助けられたのは、ジェレミー君という4歳の男の子だそうです。おそらく、飼い主の子供のジェレミー君を、自分の子供のように思って、日々一緒に暮らしていたのでしょう。人とねこのつながりのつよさと、メスねこの母性本能のすごさを物語る、感動的な動画でした。