「先日の演奏会では、ステージでみなさんが知っている曲を使って音楽の基本知識やジャンルの解説をしつつ、客席ではリズムの叩き方などを手拍子や足踏みで一緒にトライしていただきました。演者も聴衆も関係なく誰でも参加できるスタイルです。今はテレビをつけながらスマホを見たりと、何事もマルチタスクですよね。だから、コンサートでただじっと演奏を聴いていただくのが、手持ち無沙汰ではないかとなんだか申し訳ない気持ちもあり(笑)。みんなでリズムをとると、子どもが喜んで参加してくれたり、大人が一生懸命になってくださったり……。まだまだ試行錯誤中ですが、客席が一緒になれるようなインタラクティブなコンサートを増やしていきたいですね」
■理想の音楽家の姿
バイオリニストという仕事を軸にさまざまな活動に取り組む廣津留さん。そうした姿勢に大きな影響を与えているのが、ハーバード時代に出会ったヨーヨー・マ氏の存在だ。
「私にとって音楽家としてのロールモデルはヨーヨー・マさんですね。彼は演奏をゴールにするだけではなく、社会貢献・慈善活動や子どもたちへの教育活動などを行う上で、思いを伝えるためのツールとして音楽を使っています。もちろん、素晴らしい演奏ができるからこそ説得力があるのですが、自分の影響力を理解しながら、さまざまな活動をしていることに憧れます。
コロナが拡大して最初に迎えた卒業式に、ハーバードとジュリアードの両校とも、同窓生であるヨーヨー・マさんを来賓として迎えていました。きっと、コロナ禍のような非常時に必要な人として呼ばれたのだと思います。世界がどんな状況でも文化のスピリットを忘れないフィランソロピストの1人ですし、若々しくて、ユーモアがあり、遊び心がある。音楽家として私が目指したい姿です」
(構成/奥田高大)