「投手出身監督のチームマネジメント」は難しいと言われる。投手出身監督における2連覇は1989年、90年の藤田元司監督(巨人)、97年、98年の東尾修監督(西武)しかいない。高津監督は、現役時代に野村克也監督の薫陶を受けた。「僕はプロ野球の世界に入って以来、言葉で育てられたと思っている。野球は言葉のスポーツでもある」(高津監督)。野村監督の印象深い言葉は有名だ。昨年、高津監督が勝負どころで口にした「絶対大丈夫」はチームの合言葉にもなった。今季、開幕直前のミーティングで「僕には自信はないが、君らはできる集団だと思っている」と戦意を高めた。言葉での人心掌握だ。開幕戦で阪神を相手に7点差大逆転勝利の好スタートを切れたのは、その表れの一つだろう。

 4番打者としての圧倒的な存在感を誇り、「村神様」の異名を取る村上宗隆。プロ2年目の2019年、36本塁打ながら打率は.231。184三振は日本選手ワースト記録だった。それでも高津監督は「当てにいくのではなく、4番らしいスイングをしなさい。打てなくても何も言わない」と叱咤激励した。その教えは今季、結実した。

 高津監督は現役時代に日本、米国、韓国、台湾、独立リーグと、すべてのカテゴリーで、ストッパーとして薄氷のマウンドを踏んできた。苦労を味わった分、少々のピンチには動じない。「絶対大丈夫」なのだ。海外で学んだブルペンの経験値は大きい。「球数マネジメント」を徹底した。ひと昔前は、「規定投球回到達」「シーズンを通して戦線を離脱しない」などが投手のステータスとされたが、野球の評価基準は変化している。ヤクルトで規定投球回に到達している投手は昨年はゼロで、今季も小川しかいない。リリーフ投手出身の高津監督の手腕は、投手陣の整備、とりわけ登板間隔が狭くなるリリーフ陣をリフレッシュさせることで成功した。交流戦での優勝後、「リリーフみんながMVPだ」と語っている。チームのムードメーカーは塩見泰隆だ。高津監督はその塩見に、「ムチャぶり」してムードを高めようとしている。優勝の瞬間、主将の重圧から解放されて7学年下の村上の胸で山田哲人は号泣した。年齢差はなしに近いムードがチームにある。ビールかけで山田がチームメートの「集中砲火」を浴びたのも、みんなが山田の苦労をねぎらったのだ。

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