さて、一体何ができるだろう、考えました。その末に生まれたのが、2020年10月16日に始めた「夜のパン屋さん」です。
最初からプロジェクトの構想があったわけではなく、循環できる形、として考えたのが、あちこちにあるパン屋さんの閉店後に残ってしまいそうなパンを預かってきて販売するという小さな商いでした。
いろいろな場所で雑誌『ビッグイシュー』を販売している販売者さんたちに、その近くのパン屋さんからパンをピックアップしてきてもらうのはどうだろう? 最初の発想はそこからです。フードロス削減に多少なりとも貢献し、またその販売利益で、パンをピックアップして販売する仕事のギャランティをつくります。
まあ、きちんとお金を計算できる人が考えればあまり儲かる仕組みとは言えないと後になってわかりましたが、儲かるかどうかよりも、少額にせよギャランティを払ってパンをピックアップし、それをお客さんにお渡しする、食べ物の命を全うすることができる、そのことがなんだか誇らしくもありました。利益が第一目的というよりも、社会的に起業してごくごく小さい規模ながらオルタナティブな経済に参加する。少し鼻息も荒くなりました。
■ロスパンとロスジェネ
夜の街角にぽつんと灯ったあかりの下、パン屋を開いて気がついたことがいろいろありました。
お客さんと売り手の私たちの間にパンがあるせいか、なんだか関係がやわらかいのです。
取材もたくさんしていただいたせいで「いい取り組みですね」と言っていただくことも多かったのですが、その上に何げない「おいしそうね」がありました。ゆるくふわりとしているけれど気持ちに陰のない感じもして、それはなんだか、食べ物の力のような気もしたのです。
<ロスパン>と呼ばれる、残って廃棄されてしまうかもしれないパン、そのロスという言葉のことも考えました。朝焼かれて、一日売り場にふくふくと豊かに華やかに並んでいたけれど、時間がきたら「残ったもの」になってしまう。でも買われていったパンも残ってしまったパンも同じパン。残って<ロスパン>になるのは、人間の都合なんだよなあ、と思いました。