このようなケースでは、時間的にも気持ちのうえでも、まったく余裕がないことが混乱の原因になっています。
■要介護認定申請を考えるべきとき
私は、早めに要介護認定を申請しておくことは、親にとっても、介護をするあなたにとっても必要なことだと考えています。
申請・認定には費用はかかりませんし、認定が下りても、必ずしもサービスを利用しなければいけないということはありません。「いつ要介護になっても大丈夫」という安心感は、高齢の親をもつ子どもにとって得難いものではないでしょうか。
「まだ元気で生活に不自由がないのに、要介護の申請?」と実感がわかないかもしれません。しかし、親は日々年を取り、心身の機能が徐々に衰えています。突然倒れる、認知症が始まる可能性は高い、つまり「明日のことはわからない」のです。脳卒中や認知症などにかかっていない元気な状態でも、次のような変化が親に現れて、本人やあなたたち家族が「少し不安だな」と感じるようになったら、申請を検討して、公的サービスとつながってほしいと思います。
親本人は「失敗、失敗。しっかりしなきゃ」と自分でも認めて体裁をつくろおうとするでしょう。もちろん、1回限りの失敗かもしれません。しかし次におおごとにつながる可能性を考慮して、申請を考えてください。
■早めの申請で、親も家族も安心して生活を送りたい
また、申請が遅れる理由の一つに、親本人の「まだがんばれる」という気持ち、その気持ちを受けての、あなたや家族の「もうちょっとがんばってみようか」があります。特に認知症の初期には、なんとかがんばってほしいと考えるのが普通でしょう。親の自立心を尊重するのはもちろん大切です。しかしそろそろ介護や支援を視野に入れる時期にきたととらえて、余裕をもって申請に踏み出しましょう。
早めの要介護認定の申請は、親にとって、そしてなにより、子どものあなたがしっかり親をサポートしてあげるために必要です。ケアマネジャーや介護のプロとともに、これからの親の人生が安全で快適なものになるように、余裕をもって道筋をつけてあげてほしいと思います。
(構成/別所 文)
高口光子(たかぐちみつこ)
元気がでる介護研究所代表
【プロフィル】
高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「高口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気が出る介護研究所)