「片付けることで、室内の転倒防止はもちろんのこと、“何がどこにあるか”と決めておくことで、いざ介護になったときにもあわてなくて済むし、相続に対する不安も解消されます。実家に誰も住まなくなり、売るか貸すか手放すかの選択を迫られるときにも、少しでも物がないほうがいい。むしろ片付けないことによるリスクは、高齢になるほどに高まるとも言えます」(同)
片付けに取りかかる前に注意しておきたいのが、次の3点だ。
【1】スッキリ片付けすぎない
【2】正論より習慣を優先する
【3】ゴール設定を共有する
それぞれ、順を追って説明しよう。
まず【1】について。物に囲まれた生活が豊かだった時代を生きた親世代にとっては、物を減らす=不安につながる。
たとえ物があふれていても親自身は困っておらず、物を減らして不安を増やしてまで、スッキリした家に住みたいとは思っていない場合も多い。あれこれ捨てて、「スッキリさっぱり!」と思うのは、実は子どもだけということもある。
「片付け終わった子どもたちが、実家からいなくなった後、スッキリした家に残された親が寂しさを感じ、また新たに物を買ってしまう。この心理こそが、片付けてもリバウンドしてしまう原因です」(同)
日本初の片づけヘルパーで、介護福祉士の経験を片付けに生かしている永井美穂さんの元には、子ども世代から「実家が思いどおりにならないのですが、どうしたらいいですか?」という質問が多く寄せられている。
■捨てるよりも使いやすくする
しかし子どもが言う“思いどおり”が、必ずしも親のためになるとは限らない。高齢世代は、周りが亡くなっていったり、体力が低下したりと、さまざまな喪失感を抱えているもの。まるでそれを補うかのように、周りに物を置きたがる傾向も見られる。
「実家を片付けてほしいと思っているのは、実は子どもだけで、多くの親は別に片付けたいと思っているわけではありません。一日のうちで一番長くいる場所に必要なものを集めておけば、いちいち移動しなくて済むし、親にとっては快適な空間。『どうしてここに使わないものが置いてあるの?』と子どもが思っても、それは親にとっては余計なことなのです」(永井さん)