感染症が起きた際の医師の役割を理解と、患者のニーズに応じて柔軟に診療することは、コロナの中で課題となった医師のありかたでしょう。医学の発展に伴い、医師の専門分野はますます細分化されています。専門外の分野となると、最新の知識をキャッチアップするのが難しい状況です。コロナは感染症専門医だけが診療する、という考え方ではパンデミックの際に乗り切れないことが露呈しました。すべての医師が役割分担をしてカバーしなければならない状況は今後も訪れる可能性が高いです。

 私自身も当番制で発熱外来を担当していた経験から、幅広く医療をカバーする必要性と大変さを実感しています。医学部の学生の時から、将来を見据えた柔軟な心構えが大切になってきます。しかし一方で、どこまで専門外の分野を診療するかは今後の議論が必要でしょう。

 アトピー性皮膚炎は比較的診断が容易で、一般の人でもわかる病気です。しかしながら、アトピーと非常に似た皮膚病でリンパ腫というがんもあります。同じように、アトピーの標準治療はステロイドの塗り薬ですが、間違って使えば副作用がでる薬です。患者さんのニーズに合わせて、自分の専門外を診療した場合、かえって患者さんに不利益が生じるケースが出てきます。皮膚科医に脳梗塞(こうそく)の治療をお願いしたい患者さんはいないと思いますが、内科医にアトピーの薬をもらいたい患者さんは一定数いることでしょう。一般の人への啓発が進んでいない病気では、医療従事者との理解の乖離(かいり)によってトラブルになるケースも出てきそうです。しっかりとした議論が必要になると思います。

 医学は進展がはやく、今の医学生は私が医学生だった頃の倍以上、勉強することが多くなっています。新しい分野を加えていくことも大事ですが、減らしていく工夫もしなければ医学生のキャパシティーを超えてしまいかねません。カリキュラムの変更に伴い、教員の負担も増えていく一方で、総合的なボリュームを考えての医学教育の改訂も今後必要でしょう。

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