こうしたケースでは、むし歯や歯周病の治療をすると滑舌も改善するケースが多いですが、中には矯正治療が必要なこともあります。また、歯と歯の間のすき間は歯科用プラスチックのコンポジットレジンで埋めることができます。いずれにしても、歯や舌の問題で滑舌の悪さが起こっている場合、「歯科で治せるものが多い」のです。
実は日ごろから「話す」ことが仕事である役者や、歌手の人は、「滑舌が悪い」「いい声が出ない」という理由で、歯科を受診します。おそらく、かかりつけの歯科を持っている人が多いのではないでしょうか。
当院もそうした患者さんが多いのです。治療の参考になると思いますので、いくつかケースを紹介させていただきます(ご本人と特定されないように、実際の話ではなく、一部を変えています)。
あるオペラ歌手の患者さんは、
「奥歯がグラグラになっている。このままだと、歌うことができません」
と、とても困った様子でやってきました。
話を聞いてみると、
「奥歯の内側に舌を当てて、発声をするのですが、それができなくなってしまったのです」
とおっしゃいます。口の中を見ると、全体が進行した歯周病の状態になっており、患者さんが言う奥歯はとくに、悪化傾向。歯の土台の骨がかなり薄くなっており、上にのっている歯がぐらぐらとゆれていました。
そこで、まずは歯周病の進行を止めるため、徹底的にプラークを取り除きました。歯ぐきの炎症がおさまったところで隣の歯を支えに、ゆれている歯をブリッジで固定し、動かないようにしました。
患者さんは、「歌えるようになった」と、とても喜んでくれました。
ある役者の患者さんは、「どうも最近、セリフが言いにくい。歯の問題ではないか」
と相談に見えました。
こちらが診断をする前から、
「自分としては、前歯のこの部分のかみ合わせに問題があるのではないかと思っています」
と言います。