言葉が聞き取りにくいと言われる、話す時に息がもれる、発音しにくい音がある……。このような悩みは歯科で解決できるかもしれません。若林健史歯科医師によれば、役者や歌手からもこうした相談を受けることがあります。また、吹奏楽器の演奏者が「楽器をうまく吹けない」と受診するケースも。声や音が歯とどう関係するのか、治療の実際などを聞きました。
* * *
言葉を発するためには声帯だけでなく、指令系統である脳、骨や口の周りの筋肉、さらに鼻や口から出入りする空気の流れ、さらに歯や舌など様々な器官が関わっています。
歯の問題では歯並びやかみ合わせの悪さが、滑舌の悪さにつながっていることが多いです。典型的な例は、開咬(かいこう)で、これは歯をかみ合わせたときに上下の前歯の間にすき間が開いている不正咬合です。開咬の人は前歯のすき間を舌でふさいで話そうとするので、「さ・し・す・せ・そ」がはっきり発音できなくなります。上顎前突(じょうがくぜんとつ=出っ歯のこと)や反対咬合(受け口)でも、かみ合わせの悪さから、きれいな発音がしにくいことが多いです。
舌の問題では、「舌小帯(ぜつしょうたい)短縮症」という病気があります。舌小帯は舌の裏側についているヒダで、これが生まれつき短かったり、ヒダが舌の先端に近いところについていることがあり、舌の動きが制限されるために「ら」行がうまく言えなかったり、早く話そうとすると舌がもつれることがあります。
ただし、不正咬合や舌小帯短縮症は、子どものころに気づくことが多く、歯の矯正治療や舌の手術によって、滑舌の悪さも改善します。
大人になってから「滑舌が悪くなった」場合は、むし歯や歯周病によるものが多いです。抜けた歯をそのままにしていたり、歯周病が進行して歯がぐらついていたりしているために、不正咬合の状態になっているのです。歯周病や加齢の影響で歯ぐきが下がり、歯の根元にできたすき間から息が漏れるという悩みもよく聞かれます。