山本さんはさらに沖ノ鳥島や南鳥島を訪れた。そして06年、最後に残された国境の島、竹島を訪れた。
竹島へは韓国・鬱陵(うつりょう)島から定期観光船が出ていた。しかし、日本人である山本さんの竹島行きは繰り返し韓国の海洋警察に阻まれてきた。
そこで山本さんは「在日台湾人」を装い、さらに韓国の友人たちに紛れ、竹島行きの船に乗り込んだ。
「船を降りたところに日本の国旗があった。みんなそれを踏んで独島(竹島)に上陸するんです。ところが、乗ってきた船は日本の中古船だった。ブラックユーモアだな、と思いました」
07年、山本さんは16年かけてすべての日本の国境の島を訪れた記録を『日本人が行けない日本領土』(小学館)にまとめた。首相官邸で行った安倍晋三氏との対談も収めた。
「でも、この本を出すのは大変だったんですよ。国境問題? 右翼の街宣車じゃん、って。誰も関心がないから売れないよ、と」
残念ながら、編集者の予言は的中した。「この本は、ぜんぜん売れなかったんです」。
■「ヘイト本みたいで……」
ところが、出版から3年後の10年、風向きが大きく変わった。尖閣諸島の周辺海域で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に体当たりする事件が起こった。国境に対する関心が一気に高まった。
「あの事件以降、本が売れ出して、結局、6刷までいきました」
今年も山本さんは北方領土と尖閣諸島の周辺を訪れ、最新情報を盛り込んだ『中国・ロシアに侵される日本領土』(小学館)を送り出した。
「今はやりのヘイト本みたいに見られるのは嫌なんですけれど……」
このタイトルは、前作の経験を踏まえて、何としても「国境の本」を売りたい、という担当者編集者の気持ちの表れだろう。
山本さんが本書で伝えたいのは「尖閣を守れ」「北方領土を返せ」というスローガンではないという。
「今、日本の国境で何が起こっているのか、現実に目を向けてほしいんです」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)