その趣味が趣味で終わらず、仕事につながってしまうのも、この夫婦ならではだった。

「歌うべきことは歌おう、歌にした方がいいことは歌にしよう」の考えで活動してきた嘉門さん。そんな“食べすぎ夫婦”で食に関する曲を作りはじめた。それを収録したのがアルバム「食のワンダーランド~食べることは生きること~其の壱」(2016年)である。

「カレー マイラブ」という曲を作った際には、夫婦で40軒はカレー店を食べ歩いて構想を練ったそう。曲作りのためにカレー店巡りをする夫婦は、この2人以外にはいないだろう。

「オリジナリティーがある2人ならではの考えを歌にしていこう、という関係性でしたね」
 
 アンチエイジングの医師だったこづえさんの思いをつづった「アンチエイジングの歌 入門篇」も作り、昨年、こづえさんが歌っている動画を撮影した。
 
 一緒に歌を作って、一緒に飲んで食べまくって、旅行もたくさん行って、次の曲の構想を練って。はた目にはちょっと不思議で、でも絶対に楽しいであろう夫婦の生活。だが、その未来を病魔は許してくれなかった。

 今年5月に、がんが再発。進行が早く、手術をしてもすぐに腫瘍は大きくなった。最後の望みをかけた薬も効かなかった。歩行がさらに困難になっていくこづえさん。介助の疲れが一気にたまり、嘉門さん自身も体調を崩して入院した。
 
 8月の終わり。もう歩くことができなくなっていたこづえさんを車いすに乗せて、病院から家に戻った。

 夫婦の、最後の21日間。

 嘉門さんが妻のために用意した看取りへの道は、にぎやかな花道だった。
 
 こづえさんが会いたいと願った、160人もの友人が続々と家にやってきた。部屋で宴会をして、こづえさんも一緒にワインを飲んだ。
 
 押尾コータローさんがギターを弾き、元JAYWALKの中村耕一さんが「何も言えなくて夏」を歌った。固形物が食べられなくなり弱り切っていく中、最後に北海道から送られてきたウニをチュルチュルっと、実に美味しそうに食べた。

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嘉門さんが妻にささげた2曲の歌