何もしゃべらなくなり、ベッドに寝ているだけになったこづえさん。
 
 9月15日。訪問看護師が、死が近づいていることを察知して嘉門さんと廊下に出て話をした。その間、わずか2分。嘉門さんが席を外しているうちに、こづえさんは旅立った。

「息を引き取る瞬間を夫に見せてくれなかった。これは、最もつらい瞬間に僕を立ち会わせないという彼女の演出なんだと。そんな信念が伝わってきて、拍手をしたんです。あっぱれや!って」

 身内だけで行った葬儀で、嘉門さんが妻にささげた2曲の歌がある。

「HEY!浄土~生きてるうちが花なんだぜ~」という終活をテーマにしたアルバムに収録された「旅立ちの歌」と「HEY!浄土」という歌。お墓の中の故人への思いと、故人が、お墓の中から見た思いをつづった曲だ。

 3年前にこづえさんの母が亡くなったとき。昨年、嘉門さんの母が亡くなったときの葬儀で、こづえさんが歌ってほしいとお願いしてきた曲だ。

「私の時も歌ってね、という彼女のメッセージだったんだ。そう理解したんですよ」

<早くお前に会いたいけれど もう少し浮世の風に吹かれてから行くよ♪>

<忙しいとは思うけれど たまには会いにきて欲しい 風になんてなるつもりはない そこにいるから きっといるから♪>

 こづえさんのそばでその2曲を歌い切った。泣きながら。

「納骨の日に、お墓の前でその歌をプレーヤーで流したんです。そしたら、線香の煙がふわっと広がってね。やっぱり彼女はこれを願っていたんだと、確信しました。なんとも不思議な体験でした」

 妻を天国に送って、夫婦生活はフィナーレ。と思いきや、物語にはまだ続きがあった。

 照れからか、介護されることについて、嘉門さんに感謝の気持ちをそれほど語らなかったこづえさん。だが、つい最近、こづえさんの昔からの友人と酒を飲んだら、いつも、病気の自分を助けてくれる嘉門さんのことをほめていたと聞かされた。別の機会に会ったこづえさんの友人からも、同じ話を聞かされた。

「自分が死んだあと、僕の耳に入ることが絶対にわかっていて、友人たちに伝えたんだと思うんですよ」

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「いっつも、ここにおったなあ」