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 夫婦同姓しか選べないのは、実は世界で日本だけ。実生活で不便や不利益を感じている人がこれだけいるのに、なぜ議論が進まないのか。同姓か別姓か、どちらも選べる「選択的」であっても、反対姿勢を崩さない政治家がいるのはなぜなのか。

前編も読む>>夫婦別姓の議論が日本では全く進まないのはなぜ? 「反対派の意見は感覚的」

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 元文部科学事務次官で、官僚として38年間にわたり国の施策に携わってきた前川喜平さんは、反対派の国会議員について「確固たる反対意見を持っているというよりも、支援団体の顔色をうかがっている側面が強い」と指摘する。

「特に政治的に大きな影響力を持つ宗教系の団体には、夫婦別姓や同性婚に対し、反対姿勢を明確に示しているところがある。こうした支援団体の存在が、反対派の声に色濃く影響していると考えます」(前川さん)

 夫婦別姓に反対派の与党議員には、2世や3世議員といった「世襲」議員も多い。これらの「世襲」議員に共通する姿勢として、前川さんは「父親の思想をそのまま受け継いでいる人が多い」とも指摘する。

「私は夫婦別姓が認められないことは、憲法違反だと思います。姓を変えなければ婚姻を認めないというのは、明らかに個人の尊厳を尊重していない。しかし政界を見れば、ここ20年で、まるで明治国家に戻ろうとするような動きが強まったように感じる。戦後生まれであるはずなのに、まるで戦前回帰のような道徳観や価値観を持った政治家が、夫婦別姓の反対派の中心にいます。その中にも見られる『世襲』議員にいたっては、前時代的な価値観や思考を、父親からそのまま受け継いでいるように見えるのです」(前川さん)

 現在、保守派の国会議員は、旧姓の通称使用を拡大することを推進している。19年度からマイナンバーカードや運転免許証などで、本名の姓の隣にカッコ書きで旧姓が併記できるようになった。

 だが、本名とは別に通称を使用することで、この短期集中連載の第3回で紹介したサイボウズの青野慶久社長のように混乱が生じるリスクもある。また二つの名前を使い分ける人が多くなると、さまざまなところで名前を二重に管理する必要が生じ、その分手間を要することにもなる。

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中途半端に通称を名乗れるのはかえって大変に