例えば、「結婚すると女性は男性の家に入る」という意識。現在は結婚すると夫婦の新しい戸籍をつくるが、「入籍」という言葉の使用はなくならない。結婚式や披露宴などでも「○○家」という「家名」が、今も慣習として用いられている。「家柄」や「家の恥」などという言葉が残っていることも、家制度の名残といえるだろう。
「夫の姓を名乗るのが当たり前という流れも、家制度の意識が残っていることの証しです。民主的、近代的であるはずの現代においても、実態は男系の氏の継承という家制度の名残が存在し続けている」(同)
一方で、棚村教授らが、全国の60歳未満の成人男女7千人を対象に、選択的夫婦別姓制度について尋ねる調査を20年前に行ったところ、「選択的夫婦別姓に賛成」が7割にのぼり、「自分以外の他の夫婦も同姓であるべきだ」と考える人は約14%にとどまった。
さらに内閣府男女共同参画局が実施した委託調査<令和3(2021)年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査>においては、積極的に結婚したくない理由として「名字・姓が変わるのが嫌・面倒だから」と回答した割合は、20~30代の女性で25.6%、40~60代の女性で35.3%にのぼる。
「夫婦同姓でなければならないという制度は、明らかに時代に合わなくなってきている。女性の社会進出が進み、共働きが当たり前になった今の時代、結婚によって姓が変わることの不都合や不便が生じている。また姓が変わることは名前が変わることを意味し、アイデンティティーが揺らぐという声も少なくない。個人の尊厳に関わる姓に関して、自由や選択の余地を奪うのは大きな問題です」(同)
選択的夫婦別姓については、15年に最高裁が国会での議論を促している。世間の声の高まりを受け、ここ数年は国政選挙においても、選択的夫婦別姓が候補者に聞かれる質問の定番となり、争点の一つとなっている。
だが国会では、建設的な議論がなかなか進まないのが実態だ。政府与党の中には、岩盤のような反対派がおり、社会の声にある程度共感を示しても、票の行方に敏感な慎重派が多い。棚村教授は言う。
「国会での議論を聞いていると、反対派の意見は非常に感覚的で漠然としたものばかりで、明確な根拠がないものが多い。実態把握や調査を行わずに、保守的な価値観を主張している声ばかりです」