今回、初めて保見団地の若者たちと話し、彼らがどれだけハードな人生を歩まされているかを知りました。突然の解雇や自殺、傷害事件も多く、大げさでなく死が身近にある。普段は明るい彼らはふとした瞬間に「どうせ俺なんて」というあきらめをにじませます。当たり前に幸せになりたいのに、人生の選択肢があまりにも少ない。それは僕たちが彼らを「区分け」し、排斥してしまっているからです。テロにもヘイトにも戦争にも根には同じ不寛容の空気がある。
現在、日本には在留外国人が280万人以上いますが、彼らに対する視線や搾取の構造は変わっていない。そしてこれからは僕ら日本人が海外に出稼ぎに行く時代になり、同じ状況に置かれるだろうと僕は思っています。そう考えれば彼らの状況にリアルに思いを巡らせられるのではないでしょうか。
問題を声高に伝えたいわけではありません。観た後に「こういう現実もあるのか」と思ってもらえればベストだし、なにより本作は孤独な男がさまざまな違いを超えて家族を作ろうとする話です。血の繋がりや国籍に関係なく、人は誰かの大切な人になれる。それって希望だなと思うんです。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年1月2-9日合併号