大量のパウダースノーに魅了され、海外からもスキーヤーなどが集まるわけだが、岸本隊長は「バックカントリーにおける、その恐ろしさがあまり知られていない」と危惧する。
「スキー場内で何か事故を起こしたとしても巡回しているスキーパトロールが対処してくれます。けれど、管理区域の外に出れば、厳しい冬山の世界が広がっています。雪崩の危険性だけでなく、けがを負ったりスキー用具が破損したりすれば、パウダースノーの深雪のなかで行動不能の状態に陥ります」
雪山で行動不能になれば、あっという間に低体温症、さらには凍死のリスクにさらされる。十分な心構えや装備が求められるのは言うまでもない。
危機意識が低い日本人
「危機管理の点では、外国の人のほうが意識が高い印象を受けます。バックカントリーに自己責任で入る、という文化が根づいている。今回は残念ながら2人が雪崩で亡くなりましたが、たまたまその場に居合わせた外国人パーティーが一時的な救助活動を行っています。つまり、それだけの対応能力と装備を持っていた、ということです。ところが日本人は、それがまったく何もないという人が多い。本当に興味本位で、スキー場の中を滑るのと同じ感覚で外に出てしまう。ビバーク(野営)の装備もなれば、ビーコンも身に着けていない」
と、岸本隊長は苦言を呈する。
「ビーコン」というのは、微弱な電波を発する手のひらサイズの装置で、雪崩に巻き込まれて雪に埋もれてしまった場合、ビーコンからの電波をたどることで発見までの時間を短縮できる可能性が高まる。
逆に、ビーコンを身につけないで雪に埋もれてしまえば、発見は困難だ。
1月28日、野沢温泉村のバックカントリーでスノーボードをしていた男性が雪崩に巻き込まれ、30日、遺体で見つかった。「この方はビーコンを身に着けていなかったので、捜索に非常に時間がかかりました」。
発見されないケースも
ただ、ビーコンを身につけていれば、安全が確保されるかというと、まったくそんなことはないと、岸本隊長は強調する。
「そもそも、ビーコンを持っていても雪崩と遭遇するリスクは少しも減りませんし、3、4メートルも埋まってしまえば、まず助かりません。バッテリーの性能がよくても、ビーコンが作動するのはせいぜい300時間程度です」
遭難現場が深い谷で、悪天候が続き、雪崩による二次遭難のリスクもあってなかなか救助に入っていけない場合、ビーコンのバッテリーが切れてしまい、発見されないこともある。
「みなさん、バックカントリーのリスクよりも、滑りたいという気持ちを優先しがちですが、万が一のリスクが非常に高いということをよく考えてもらいたい。本人は楽しくていいと思っているかもしれませんが、ご家族はどう感じるのか、想像してほしいです」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)