しかし、先に指摘したように、育児はやはり楽ではない。宮崎さんは一人目の子どもだからできたが、ここに二人目がいたらリスキリングの時間はつくれないと見ている。また、一人目の子どもでも、生後半年程度たてば、ハイハイを始めたり、いろんなものを口に入れ始めたりするため、目を離せなくなるという。
「生まれてから半年間はリスキリングのゴールデンタイムだったと思います。特に第一子であれば、頑張れば時間はつくれる。1日1時間でもつくれれば、勉強はかなりできます。半年後でも夜泣きがなくなってくれば、夜に時間をとるということもできなくはない。ただ、やはりリスキリングするには、本人の強い意思や、夫も育休をとるといった環境がないと本当に大変。できる人は一部に限られると思います」
リスキリングをしたくてもできないような現状があるのであれば、できるための環境を整えることは重要だ。いったいどんな施策が考えらえるのか。宮崎さんの案はこうだ。
「男性が育休を取る環境をまずつくらないといけません。また、ベビーシッターの補助制度を充実させたり、子どもを近所で見てもらったりするなど安心して子育てできるコミュニティーをつくることも有効だと思います。復帰後に時短で働くためのスキルを身に付ける産休・育休用の試験をつくるのもいい。また、育休をとると、そうではない同僚の業務量が増え、不満がたまるという課題もあります。負担の増えた同僚には国が助成金を出せば、育休の取りやすい環境が出てくるのではないでしょうか」
別の専門家はどう見るか。詩人で社会学者の水無田気流(みなした・きりう)国学院大教授(家族社会学・ジェンダー論)は、岸田首相のリスキリング発言は「働く女性の実態が見えていない」という。
日本の共働き夫婦では、家事・育児などの無償労働は女性に偏っており、外で有償の仕事をしながら、家の仕事もこなさなければならないという現状がある。有償と無償の仕事時間を合計すると、先進国の中で最も働いているのは、「日本の既婚で子供のいるフルタイムワーカーの女性」であるという研究結果もある。