水無田教授はこう語る。
「女性の仕事と家事育児の二重負担は先進国で最も重い。そのような中、現状を変えずにリスキリングも要請するというのは、いわば『日本女性超人化計画』のようなもので、多数派の女性の実状に即していません。岸田首相からは、どういう社会にしたいのか、どういう女性の活躍を思い描いているのかという、理念を感じることはできません」
他方で、リスキリング自体は、成長産業などで必要とされるデジタル技術の取得や、育休明けに直面する女性の働き方の変化に対応するためにも、期待されている手段だ。
産休・育休中にリスキリングをするならば、「育児をしている人の時間をいかに確保するかが重要。そのためには家事代行やベビーシッター、託児所などの利用しやすい環境をつくることが必要です」(水無田教授)。イギリスやフランス、ドイツなどでは利用料の税額控除があり、家事・育児の経済的な負担が軽減されているという。
また、男性の育休取得についても日本はまだまだ遅れている。日本の男性の育休取得率は年々上がってきてはいるが、それでも約14%にとどまっており取得期間も大半が1カ月以内となっている。スウェーデンでは男性の9割が育休を取ると言われており、ドイツでは男性の取得率は43.5%、フランスでは男性の育休が昨年7月に義務化されている。さらに、日本では育休を取得しても妻に家事・育児を任せきりの「取るだけ育休夫」の問題も指摘されている。
水無田教授はこう語る。
「育児環境を変えるためには、働き方改革を進めるとともに、暮らし方改革もセットに議論し、就業と家庭生活に関する価値観から変えていく必要があります。女性に家事育児介護などのケアワーク負担が偏っている状況は、少子化問題にもつながっています。OECDの調査では、日本の子ども・子育て支援に対する公的支出(17年)はGDP比で1・79%(約10兆円)です。少なくとも平均の2・34%(約13兆円)、理想的には3%(約16兆円)くらいまで支援しないと、女性が時間を確保する環境は整えられないように思います」
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)