――ほかには?
荻上 こども家庭庁の創設(今春)の際に設置が議論された「子どもコミッショナー」を置いて、各虐待に対処する。子どもコミッショナーは子どもの側に立って、親と交渉します。親が怖くて何も言えない子どもが声を上げられるように援助するわけです。例えば、この子は月1回くらいは宗教行事に参加すると言っているので、毎日の祈りはやめにしませんか、まずはそこを譲歩しませんかと、親と妥協点を探る。教団から脱会させるとか、親との縁を切るだけが宗教との「距離のとり方」の唯一ではありません。「それぞれの信心の幅」を認めるものです。
菊池 そのとおりですね。
荻上 さらには宗教2世に対する偏見や差別への対策、脱会後のケア、さまざまな措置を一歩ずつ進めていく。そうすることで、現場に知見が集まってくる。それを基に宗教虐待に対処するノウハウが改善し、さらなる改正論議につなげる。今は、その循環をまわしていくためのファーストステップを一生懸命につくろうとしている段階です。今年の国会で議論すべき課題は、この虐待関係の議論を、どこまで盛り込めるかです。
■当事者と間接的に触れる大切さ
――宗教虐待について、周囲の人が通報していくことが重要だと言われましたが、宗教虐待についての社会通念を変えていくには何が必要だと思いますか?
荻上 社会全体が、何かの問題に気づくためには、当事者と間接的に接触する機会をつくっていくことがとても重要です。メディアを通じて当事者の存在を知る「間接接触」にも、実際に会うのと同様の効果があります。「間接接触」には、菊池さんの作品のような当事者漫画も含まれます。SNSを通じて触れることも間接接触にあたります。
菊池 へえー、そうなんですね。
荻上 いじめやデートDVなどの問題解決へ向けた取り組みでも、当事者の実体験が知られることで社会通念としての人権感覚が拡大してきました。そういう土壌が広がらなければ、通報件数も増えませんし、行政の対応も腰が引けたものになりがちです。なので、宗教虐待を受けた子どもたちがここにいるんです、とメディアが伝えて、間接的に当事者と触れていく。すると、その人の世界認識が変わるんです。