荻上チキさん(左)と菊池真理子さん
荻上チキさん(左)と菊池真理子さん
この記事の写真をすべて見る

 山上徹也被告による安倍晋三元首相への銃撃事件直後に、宗教2世に対する詳細な調査を行い、その結果を編著『宗教2世』(太田出版)にまとめた評論家・荻上チキさんと、自身も宗教2世で、多くの2世の体験を描いた『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』(文藝春秋)を刊行した漫画家・菊池真理子さんによる対談。前編に続き後編は、「宗教虐待」に対しての取り組みや具体的な対策、制度のあり方などについて語った。

【写真】安倍晋三元首相を銃撃直後の山上徹也被告と取り押さえようとするSP

*  *  *

――宗教2世問題について、厚生労働省が対応指針を作成しました。骨子としては、親が子を脅して信仰を強制するのは児童虐待であり、ちゅうちょすることなく一時保護する、というものですが、実効性があると思われますか。

菊池 児童虐待については、きちんとした法律がありますが、宗教2世問題については、法律を根拠に児童相談所や警察が介入するもっと前の段階に多くの課題があると感じています。これまで、宗教2世であることを他人に話せる人は少なかったですし、言ったら言ったで偏見の目にさらされてきました。彼らの相談に対して、宗教の話はタブー、ノータッチではなく、「どうしたの?」って聞ける人がもっと増えてほしい。それには人の意識が変わっていくことが大切だと思います。

――話を聞いてくれるだけでも気持ちは楽になりますか?

菊池 ものすごくいいと思います。そこからもう一歩進めて、宗教虐待を受けている子どもの話を聞いてくれるスクールカウンセラーを拡充してほしい。あと、学校の先生にも、お父さん、お母さんがこういうことをやっていたら、「おかしいのはあなたじゃないからね」って、言ってくれるようになってほしいです。

荻上 宗教虐待に対処していきましょう、という厚労省の方針は一歩前進です。現場での対応が変わることもさることながら、宗教虐待に対する社会通念を変えてくれますから。

菊池 変わるでしょうか?

荻上 変えられます。そもそも児童虐待の通報件数は増え続けています。なぜかというと、これまで虐待ではないと思われていた行為を多くの人々が虐待だと認識するようになったからです。虐待には身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトなどの類型があり、実務を行うなかで統計をつくってはいるのですが、現状では宗教虐待のモニタリングが難しいので、そこは改められる必要があるでしょう。

「宗教2世」を守るための対策を求める約7万筆の署名が厚生労働省の担当者(右)に手渡された=2022年9月28日
「宗教2世」を守るための対策を求める約7万筆の署名が厚生労働省の担当者(右)に手渡された=2022年9月28日
次のページ
親との縁切りだけが宗教との「距離の取り方」ではない