次に「10%割引」より「10%ポイント還元」を選んでしまう心理について。

「10%割引」と「10%ポイント還元」はどちらが得かと聞かれたら、同じ10%だから同じだけ得、と答える人は少なくないだろう。だが実際は、「割引」のほうが「ポイント還元」よりも得。10万円のバッグを10%割引で買う場合。支払うお金は9万円で、割引率は、

(10万円-9万円)÷10万円=10%
 
 となる。一方、10万円のバッグを購入して10%のポイントを受け取る場合、ポイントを含めた11万円分の商品を10万円を支払って購入することになるので、割引率は、

(11万円-10万円)÷11万円=約9.1%

 となる。それにもかかわらず、ポイントをためるのが好きだという人は多く、いつ使おうかと楽しみにしながら、使わずにため続ける人もいる。

 ポイントはアプリのデータやカードなどの形で顧客の手元に残り、自分のものになると実際以上に価値が高いと思い込む「保有効果」が働く。顧客はこれを大事にし、ポイントをためること自体を楽しむようになる。時間が経つほどに満足が拡大することを好む「上昇選好」が働くからだ。逆に、ポイントを使うことに対しては、手元のポイントを減らす行為として「損失回避」が働き、ポイントのために発行元のショップで買い続けることになる。「ポイント還元」は、顧客との関係を長く続けるための、売り手にとって便利なしくみなのだ。

 経済学と聞くと身構える人は少なくないが、なかでも行動経済学は、個人の経済的な活動をよりよくしてくれる学問。いまこそ、1円でも損しない「賢い消費者」への第一歩を踏み出したい。

(構成 生活・文化編集部 上原千穂)