そんなファンが珍しく違和感を示したのが、10作目のシングル「けんかをやめて」。昨年公開されたアニメ映画「すずめの戸締まり」でも使われた彼女の代表曲だ。

 ヒロインの二股的状況を竹内まりやが「揺れる乙女心」「よくあるでしょう」とゴリ押しした設定に、当初は奈保子のイメージには合わないとする拒絶反応すら生まれたが、結果は大ヒットだった。

 じつはそこに、彼女の魅力の謎を解くカギがある。のちにセルフカバーもした竹内は「私が歌うと、ほとんどネタかっ!てぐらいのイヤミな女です(笑)」としたうえで、

「歌いながら『あんたは何様?』とひとり突っ込みが入りますよね。かわいい奈保子ちゃんの歌だとほほえましく聞こえる」(音楽ナタリー)

 と、分析。たしかに、他のアイドルで想像しても、似た感想を抱いてしまう。これがもし、聖子ならリアルすぎて怖いし、明菜でも別の意味で怖い。あくまでフィクションとして楽しむことができ、ヒットにつながったのは、奈保子がうまく曲の毒を消しているからなのだ。

 この「毒消し」の才能は他にもいろいろ発揮されている。

 デビュー曲「大きな森の小さなお家」はメルヘンチックななかに性的な暗喩がこめられたあざとい曲だが、彼女が歌うと全くいやらしくなかった。豊かなバストを生かした水着の仕事もまたしかりで、セクシーというより、健全なお色気として機能。これは彼女が無邪気とか天然と形容されるキャラだったことと無縁ではない。

 ブレーク直後に「紅白歌のベストテン」(日本テレビ系)に出た際、番組のアンケートに「よくわからない」と答えたことを司会の堺正章にちゃかされて以来、野心も計算も裏表もないアイドルというイメージが定着していた。

 が、彼女の本質はそれだけではなかった。

 ピアノも弾けるし、のちに作曲もこなすようになるなど、音楽的素養も十分。81年10月には「レッツゴーヤング」(NHK総合)のリハーサル中にセリ穴に落ち、腰椎圧迫骨折という大ケガをしたが、2カ月で復帰した。その年の「紅白」では初出場ながらトップバッターを務め、コルセットをしたまま、ケガをした同じステージで熱唱。悲劇性を感じさせずに、明るいイメージを貫いた強靱(きょうじん)な精神力は特筆に値する。

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奈保子に憧れた岡田有希子