アエラが8月に実施したアンケート(2019年9月2日号特集「英語民間試験は中止して」271人の悲鳴)では、英語民間試験の実施について延期を求める声が約2割、中止を求める声が約7割。延期より中止の声が大きく上回った。

「4技能を評価することの意義や重要性は否定しない。しかし試験の絶対条件である公平性の確保が不可能である以上中止すべき」(49歳男性・大学教員)

「理念に対して出てきた施策が『絵に描いた』」(50代女性・高校教員)

「延期をしても根本的な問題は解決できない。どうしても4技能の試験をしたいなら入試センターが統一テストを作るべきだ」(45歳女性・保護者)

「延期」よりも「中止」を求める声が多かったのは、制度設計そのものに問題があるため、延期しても抜本的な解決につながらないと、多くの回答者がとらえているからだった。

 東京大学の阿部公彦教授は、英語の民間試験の根本的な問題は「公的入試の民営化」にあると指摘する。

「試験がこのまま強行されたら会場やシステムのトラブルなど、なにかしら事故が起きる危険性があった。実害が出る前に延期になったことはよかった。民間試験事業者も内心、同様ではないか。会場は2回受験を想定すると、のべ100万人分以上が必要。その確保の問題ひとつとっても、文科省は『受験生が希望する最寄りの会場で受験できるよう、事業者にできるだけ多く設置してもらえるよう努める』の一点張りで丸投げ状態だった。しかし、事業者も営利事業である限り、採算の取れない会場をいくつも設定するわけにはいかない。そもそも公的入試の民間委託は利害が一致せず成立しないのです」

 阿部教授は一度振り出しに戻って、英語力の向上のためにすべきことを、「入試を変えるのではなく、学校の授業環境の充実する」といったことも含め総合的に考える必要があると言う。

 前出の羽藤教授も次のように言う。

「大学入試センターが主導して、民間と専門の研究者の知恵と技術を合わせながらスピーキングの統一テストを開発すべき。本気で取り組めば2024年度実施も不可能ではありません」

 大学入学共通テストのもうひとつの目玉である、国語と数学の「記述式」も問題が山積している。

 国語の記述式については「自己採点ができない」「大学生のアルバイトが採点者に入る可能性があるのは問題」などの声が上がっている。

「大量の採点をさばくために多くの条件づけがされた記述式問題は、もはやマークシート式とさほど変わらず形骸化している」と疑問視する声も多くあがっている一方で、採点業務をベネッセの子会社が落札し、約61億円もの費用が投じられる。

 冒頭の筑駒生は10月、文科省前のデモでこう訴えた。

「本来ならば、教育の現場で行われるべきことを、入試に担わせようとした結果、(大学入学共通テストは)入試としての役割を果たせなくなっているんです。英語の4技能を問い、思考力を問い、表現力も問い、いくつものことを押し込み問おうとしている。こういった営みは、あくまで教員にリソースを割いて教室で行われるべきことです。僕がお願いすることはただひとつです。僕たちに『入試を受けさせてください』」

 この声に国をはじめ大人たちはどう答えるのか。
 英語の民間試験延期をきっかけに、大学入学共通テスト全体の真摯な再検討が不可欠だ。

(編集部・石田かおる)

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