貴司くんがヒロインに告白する重要な局面を迎える日の朝(2月17日)は、よりにもよって、あいにく飛行機に乗っている時間で、リアルタイムで観ることができなくて。だから「きっとこんな短歌で告白するんじゃないか」という妄想短歌を2首、搭乗前に投稿してから飛行機に乗ったんです。
(「7時半から10時まで飛行機だと気づき、頭抱えている。貴司くん、きっと恋の歌詠むよね・・・地上のみなさん、ひと足先に舞いあがってください」から続けて、「千億の星の一つになりたくて心が空を舞いあがる夜」「一瞬の君の微笑み永遠にするため僕は歌い続ける」の2首を投稿)
そしたら、貴司くんを演じる俳優の赤楚衛二さんが、ちょうどその日のNHK「あさイチ」にゲスト出演していて、番組で私の妄想短歌を見ていることと感想話してくれて、めちゃくちゃ嬉しかったです。飛行機から降りてツイッターを見たら、搭乗前のツイートがバズっていて、こんな風に広がることがあるんだって驚きました。
——「舞いあがれ!」で出てきた中で、一番好きな短歌は?
どれか一つを選ぶのは難しいですが、「トビウオが飛ぶとき 他の魚は知る 水の外にも世界があると」は、すごく好きです。新しい世界に踏み出すヒロインを「トビウオ」にたとえて、海しか知らない魚が、新しい世界に飛び出すことを爽やかに捉えている。ドラマを象徴するような、みずみずしい歌だと思います。
脚本家の桑原亮子さんは、歌人でもありますが、ドラマに出てくる短歌を読むにつれ、「この人は紫式部だ」と感じ入っています。 『源氏物語』を書いた紫式部も、物語の中で登場人物に歌を詠ませていますが、ダサい男にはダサい歌を詠ませたり、田舎の姫にはそれらしい歌を詠ませるなど、登場人物のキャラクターに合わせた短歌が絶妙。桑原さんは、朝ドラでそれと同じことをやっているなと思います。
例えば貴司くんが、初めて詠んだ短歌は、「星たちの 光あつめて 見えてきた この道をいく 明日の僕は」。とても良い歌なんだけれど、若干抽象的だし、稚拙なところもある。言ってみれば、いかにも初心者が作りそうな歌なんです。それがドラマが進むごとに、だんだん微妙にうまくなっていって、その塩梅の加減がぴったり。私がドラマをもとに作る妄想短歌は、やっぱりどこか私の短歌になってしまうけれど、桑原さんは脚本としての短歌を紡げる。これは歌人でもあるし脚本家でもないとできない技だと思います。