科学研究費補助金(科研費)と職員数では、規模で劣る慶應が上回っている。この理由は、次の財務分析にカギがある。
専修大学商学部の小藤康夫教授(65)の協力を得て、公表データを元に両大学の財務諸表を作成・分析した。売上高(18年度、以下同)は早稲田の1048億円に対し、慶應は1631億円と上回るが、純利益は早稲田60億円、慶應62億円とほぼ同水準。売上高で上回りながら、利益は振るわない慶應。小藤教授はその原因を「早稲田にはない医学部と大学病院の存在が大きい」と話す。
売上高の多くを占める「学納金・手数料収入」は、学生数で上回る早稲田が706億円、慶應が566億円。ただ、慶應は医療部門の収入585億円が売上高に加わる。一方、医療部門は高額な最新機器などが必要なこともあり、266億円の経費も計上。売上高とコストがともに大きい医学部・大学病院の有無が、早稲田と慶應の経営を分けている最大の要素だ。前出の職員数や科研費の差もこの影響が大きいとみられる。
医学部の有無は、財務の健全性にも色濃く影響している。03年度からの推移をみると、早稲田は06年度以降一貫して80%を超えているのに対し、慶應は70%台前半から半ば。小藤教授は「設備投資のため金融機関などから借金をする必要があることが、自己資本比率を引き下げている」とみる。
一方、収益性を測る「ROE(自己資本利益率)」は拮抗しており、18年度は1.9%で両校が並んだ。ただ、優良企業の目安とされるROEは10%程度。利益だけを追求しているわけではないとはいえ、褒められた水準ではない。原因の一つが、資産運用によるもうけの少なさだ。米国の大学は資産運用に力を入れており、収入全体に占める投資収入の割合はエール大学で40.1%、ハーバード大学で38.8%(ともに18年度)。一方、18年度の早稲田は2.3%、慶應は1.9%に過ぎない。
大学は年度末に、将来の設備投資や施設の整備に備えたお金を「基本金」に組み入れる。売上高のうちどのぐらいの割合を基本金に回すかを示す「基本金組入率」は、成長に向けた投資に熱心かどうかを測る指標になる。早稲田はかつて約20%という高水準だったが右肩下がりの傾向で、近年は5%前後。一方の慶應は約10%で推移している。小藤教授は「医学部の有無という条件の違いに加え、早稲田は近年、経営の安定性を重視しているようだ」とみる。