■クラウド会計に統べられる未来
代表的なベンダー「freee(株)」(本社・東京)の小泉美果・金融渉外部長兼プロダクトマネージャーに会って話を聞くと、
「紙で処理していたら本業に手が回らなくなってしまう事業者やフリーランスの方々の力になりたい。当社はクラウド型販売管理ソフトも販売しているのですが、これを使って毎日の業務を遂行していくだけで自動的に会計ソフトと連動するという、特に税務を意識させない“統合型”のプロダクト作りを目指しています」
と言う。総務省で12年間、デジタルガバメントの推進や働き方改革に携わった経歴を持つ元官僚だ。なお、freeeの創業者で現在もCEOの佐々木大輔氏(42)は、「グーグル」の元プロダクトマーケティング・マネージャー。祖父の代から美容院を営んでいた実家の苦労をどうにかしたいとの思いを糧に、12年に同社を立ち上げた由。
17年にはクラウドソーシング仕事依頼サイトを運営する「ランサーズ(株)」などと共同で、フリーランスのバックオフィスを支援する非営利団体「フリーランス協会」の設立も支援した。大手損保会社の協賛で所得補償や賠償責任の保険に加入できる体制は、フリーの身空にとって福音ではある。
言うまでもなく、クラウド型会計ソフトはfreeeの専売特許ではない。ライバルの「マネーフォワード」や、「弥生」「ミロク情報サービス」といった老舗も覇を競っている。彼らはインボイス制度のスタートを前に「デジタルインボイス推進協議会(略称EIPA)」を結成。会員企業203社の他に全国銀行協会や日本公認会計士協会、日本税理士会連合会などの特別会員等を擁し、デジタル庁とも協同しながら、システムの共通化・全体最適化に躍起だ。
関係筋の話を総合して考える。このまま進めば、日本のフリーランスは近い将来、クラウド型会計ソフトを中心に統べられていくのではないか。働き方改革──働かせ方改革──の奔流で正社員が激減し、フリーランスの重要性が叫ばれている状況と、デス・ゲームとしてのインボイス制度が共存することになる奇観は、ここにおいて矛盾しない。
ただし、そのようなあり方に「フリーランス」の呼称は相応しいだろうか。フリージャーナリスト歴三十余年の筆者には強烈な違和感が残る。さらにまた、デジタルインボイスとキャッシュレス化で先行する韓国では、徴税当局がほぼ全国民の金銭のやり取りを逐一、リアルタイムで掌握・監視していると伝えられてもいる。
いいのか、それで? この先はまた別の機会に譲りたい。
※週刊朝日 2023年3月3日号