「デス・ゲームですね」
フリーライターで、「インボイス制度を考えるフリーランスの会(STOP!インボイス)」の発起人でもある小泉なつみ氏(40)の形容が耳について離れない。隔離された登場人物たちが主催者の提示する「ゲーム」で殺し合う筋立ての創作ジャンルを指している。
消費税について、政府はウソばかりついてきた。それが許され続けている現実と、新聞が飲食料品とともに軽減税率の恩恵を享受していることとは無関係だ、と言い切ることのできる信念を、私は持ち合わせていない。
興味深い数字がある。インボイス制度が開始されると、農林水産業などを除く非課税事業者約372万社のうち、約161万社が課税事業者に転換。その売上高平均を約550万円、粗利益150万円と想定して、1社当たり平均の負担額は15.4万円となるという。19年2月26日の衆院財務金融委員会で明らかにされた財務省の試算だ。
粗利の1割以上を持っていかれる零細事業はそれだけで成り立ちようがない。しかも161万社という数字は、いわゆるBtoC(一般消費者との取引)が主体と思われる小売業やサービス業などを除外したものだった。
■あまりに粗雑な主税局長の答弁
質問に立った野党議員は、スナックなどの飲食業の例を挙げた。会社の交際費で使われる社用客を引き留めようと思えば、
「BtoC中心の業者でも課税事業者になって、インボイスを発行できるようにならなきゃという話になると思うんですが」
きわめて適切かつ普遍的な例示だった。数の内に含めてもらえなかった事業者のほぼすべてが、同様の事情に直面しよう。
にもかかわらず、財務省主税局長(当時、後に国税庁長官)の答弁は以下の通り。
「さまざまなケースがございますので、一定の仮定として」
絶句。ここまでいいかげんな、言わば「見通し偽装」に基づいてまで、「デス・ゲーム」は強行されようとしている。
混乱も廃業や倒産も、貧困も格差の拡大も、当然のことながら、フリーランスや自営業だけのコップの中の嵐では終わらない。消費税とはより弱いほう、弱いほうへと向かっていく悪魔的な特性を湛えた税制であり、人間は誰しもが生きるために必死だ。弱い者イジメの玉突きが幾重にも繰り返されて、もはや明々白々な経済社会全体の凋落が、取り返しのつかないところまで堕ちていかない保証はない。