■タクシー業界も「締め出し」危機
そんな近未来が、あらゆる分野に及んでいくに違いない。フリーランスの名で括られる職種に限らず、店舗を持つ自営業もプロのスポーツ選手も、要は源泉徴収と年末調整のコンビネーションから成るサラリーマン税制の枠に入らない、申告納税をしている「個人事業主」「一人親方」たちと、彼らの棲む業界は、みんな。
安倍晋三政権で副首相と財務相を兼任していた頃の麻生太郎氏(現自民党副総裁)が、だからどうした、と言わんばかりの答弁をしたことがある。件(くだん)の軽減税率を柱とする税制改正関連法案の国会審議入り直前、インボイスが零細な商店を廃業に追い込む危険を衝かれ、
「そういった例がないとは言いませんよ。ないとは言いませんけれども、(中略)一つや二つあったとか、百あったとか千あったとか、いろいろ例が出てくると思いますよ。それは今の段階で私どもはわかりません、そういったようなことは」(16年2月15日、衆院予算委員会)
破壊はすでに全国で始まっている。当事者には存立に関わる理不尽を、百だの千だので済ませられる為政者が、我が物顔で罷(まか)り通る国の絶望と言うべきか。昨年からこのかた、たとえば──、
●広島県の個人タクシー組合が組合員らに、「インボイス対応車以外は駅構内の乗り場に入れなくなる」旨を通知した。鉄道会社の意向もあり、非課税の運転手と代金を勤務先に請求する客とのトラブルを回避する目的だった。同様の動きは各地で見られる。
●福島市がホームページに「インボイスをできない事業者は競争入札に参加させない」旨を記載した。民間だけの問題ではない。長崎県西海市の学校給食会も食材納入業者に対してインボイス登録の意向調査を行っていた。
●JU群馬(群馬県中古自動車販売協会)が会員業者にインボイス登録を呼びかけた。「登録番号のない会員様はオークションに参加できません」と明記されていた。
物証があったり、議会等で取り上げられたケースだけを列挙した。公取委や総務省などが対応して改善された場合もあるようだが、どこまでも氷山の一角に過ぎない。やはりフリーランスの一人である私にも、年明け以降、いくつもの出版社から、インボイス登録を求める書状が届いている。