さて、内実はどうあれ、課税事業者は税務上、「本体価格」に上乗せして顧客から“預かった”体裁ではある消費税分を丸ごと税務署に持っていくかと言うと、違う。そこから仕入れ先や必要経費のために支払った消費税分を差し引いた額を納める。この計算式を「仕入れ税額控除」という。

 ところが、である。インボイス制度の下では、

<(課税事業者が)「仕入れ税額控除」を使うには、仕入れ元が発行したインボイスが必要となる。それがなければ、仕入れ分の消費税を差し引けず、自社の負担増になる>(朝日新聞2022年10月27日付朝刊)。

 節税できない、のではない。課税事業者は非課税事業者との取引では、消費税の基本的な計算を行う権利を剥奪され、余計な税金を取り立てられる羽目に陥るのだ。

 それが嫌なら非課税事業者に課税事業者への転換を促すしかない。慎重な者にはギャラを引き下げて帳尻を合わせるか。いや、面倒な非課税事業者など切っちまうのが手っ取り早い、という話だ。

 つまり課税事業者は、苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)の化身としての消費税をめぐり、インボイスなる新兵器を駆使して、弱い者イジメを徹底しないと、自分自身が生き残れない。アシスタントに「申請して課税事業者になれ」と申し渡さざるを得ない漫画家の心中はいかばかりか。

 ちなみに、1万人超と言われる日本の声優の76%は年収300万円以下で、1千万円を超える収入がある人は4%にとどまるという。インボイス反対の声優団体・VOICTIONのインターネット調査なので、回答者に偏りがないとは言えないが、それでも9割以上は非課税事業者だと推定されている。

 声優はあくまでも一例だ。アニメや漫画、演劇など、文化・芸術、エンターテインメントの世界で下積みに耐えている人々の多くは、安定より夢を優先し命を燃やしている。だが、インボイス制度に生活そのものが侵食され立ち行かなくされてしまえば──。その世界は確実に衰退していく。やがて誰もいなくなる。

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