白砂社長は障害の有無にかかわらず、従業員それぞれの特性に合った働きやすい環境を築くことが、企業の成長につながると強調する。
「例えば、メモが苦手な発達障害を持つ人に録音を認めることは組織の柔軟性向上につながります。人材育成の幅が広がれば、人手不足への対応力も増し、社会の共感も得やすくなるはずです」(白砂社長)
発達障害の人の採用を積極的に行っている職場がある。東京・千駄ケ谷にある、サザビーリーグHRの業務サポートセンターを訪ねた。
固定電話の置かれていないデスクでは、20人近いスタッフが黙々とパソコンに向かっていた。イヤホンや遮光眼鏡をつけたまま、働いている人もいる。同社の4カ所のサポートセンターで働くスタッフ64人のうち、60人が発達障害を持っている。イヤホンや遮光眼鏡を許可しているのは、電話応対が苦手で、周囲の音や光に過敏に反応してしまう人への配慮だ。
発達障害を持つ人の雇用モデルといえる職場だが、同センターのリーダー、陣内泰子さん(46)は、「年がら年中、あちこちで問題が発生していますよ」と苦笑する。陣内さんは、障害者雇用に関する講座や研修を受けてきたが、こう打ち明ける。
「発達障害の特性はみんなばらばら。ケースバイケースで臨機応変に対応するしかありません」
スタッフがある日突然定時出社できなくなる、感情の起伏が激しく周囲への不快感を露わにすることもしばしばだ。
「こちらは指導しているつもりでも、パワハラと受け止められてしまうケースもあります。発達障害はストレスの感度の高い人が多いですが、一緒に仕事をしている私たちのストレスもすごいんです」
陣内さんはあっけらかんと話す。発達障害の特性を持つ人たちと向き合い、どうすればもっと働きやすくなるのか、日々模索しているという。そうして得た知見を全社で共有したのが、いまの職場環境だ。
同社の採用枠は「障害者雇用」だが、その姿勢は雇用形態にかかわらず、参考にすべきことはありそうだ。
当事者も非当事者も、発達障害を持つ人とその「特性」に、どう向き合うか。クローズ就労を選択せざるを得ない状況は、どうすれば変えてゆけるのか。
当事者の意向が配慮されるべきなのは言うまでもない。だが、当事者も周囲も疲弊する悪循環を変えるには、タブー視したり切り捨てたりして問題を覆い隠すのではなく、オープンに議論できる環境整備こそ求められているのではないか。当事者たちが声を上げ始めたいまは、その過渡期だと受け止めている。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2019年6月24日号