「母乳は万能だといろんなところに書かれているんです。やっぱり子どもにはなるべく最高のものをあげたいと思うようになってしまいました」
いつしか、母乳で成長させることが「母親としての最低ライン」とさえ思うようになったと話す。満腹になる量を飲めないためか、子どもは頻繁に泣きじゃくる。十分な睡眠をとれぬまま、「完母でなければ」という意識ばかりが強くなった。
産後に転んで腰椎を骨折し2カ月入院した。それでも搾乳機で必死に母乳を搾り出した。母乳外来にも通院したが、母乳量は十分にならない。担当の助産師からは「あきらめたほうがいい」と告げられた。
「助産師さんが『おっぱいだけで育った子はかわいい』となにげなく話しているのを耳にした時は本当につらかったです。私は最善を尽くせなかったと、子どもが2歳になった今でも心にひっかかっているんです」
都内に住む3歳と7歳の男の子を持つ美容師の女性(39)は、長男の授乳に苦戦した。
「うちは子どものほうがおっぱいをいやがり飲まなくなった。このまま母乳にだけこだわっていたら栄養も不足するのですぐにミルクに変えました」
女性は仕事の都合で、産後数カ月で長男を保育園に預けた。通園にミルクは重宝したが、通い始めてすぐ、感染症で長男が入院した。
「こんなに弱いのは母乳で育てなかったからでは」
と当時は不安になったと話す。しかし、成長してみると、長男は病気にもかからず、元気だ。自分を責める必要はなかったと今では思う。
「保育園に通うのにミルクはちょうど良かったし、夫にも子育てを頼みやすかった。これでよかったのだと思うようにしています」
(フリーランス記者・宮本さおり)
※週刊朝日 2019年3月25日号より抜粋