日本でも2018年3月から国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で、第1相の臨床試験が始まった。臨床試験には実用化に向けていくつかのステップがあるが、第1相は安全性や体内での動きを調べる最初の段階だ。すでに試験は終了し、「日本人においても安全性に問題はなかった」という結果が報告されている。
この治療に注目してきた同院副院長の土井俊彦医師はこう説明する。
「光免疫療法は、抗体が結合していない細胞や光が当たらない細胞にダメージを与えることはほぼなく、がん細胞だけをピンポイントで破壊できます。治療自体も数時間で終了します。これまでの治療と比べると、体にかかる負担は軽いと考えていいでしょう」
さらに土井医師は続ける。
「日本での第1相試験の結果として言えるのは安全性だけです。しかし先行するアメリカの臨床試験で確認された効果を否定しない感触でした」
EGFRを標的にした抗体自体は新しいものではない。EGFRに結合してその働きを抑えるセツキシマブ(商品名アービタックス)という分子標的薬を投与する抗体療法が、大腸がんと頭頸部がんで承認されている。
しかし、「抗体療法でがんを殺すには、ある程度の抗体量が必要です。分子標的薬の副作用は抗がん剤に比べれば少ないとはいえ、がんの増殖を抑える目的の量を投与すれば、正常細胞もダメージを受けて副作用が起こります。一方、光免疫療法は、光によってさらに標的を絞りこんで治療できるので、抗体療法に比べると極めて少ない投与量で済み、副作用を大幅に軽減できる。さらに既存の抗体をベースに利用し、少量で済むとなれば、コストを抑えることもできるでしょう」(土井医師)。
アメリカでも日本でも、臨床試験は「頭頸部がん」を対象にスタートした。頭頸部がんが選ばれたのはなぜなのか。
EGFRは発現しやすいがんとしにくいがんがあり、頭頸部の扁平(へんぺい)上皮がんではほとんどの症例に発現する。さらに体の表面に近い位置にあるので、外部から赤色光が届きやすい。
「赤色光は深さ3~4センチまで届きますが、よりしっかりと光を当てるために、ファイバータイプの照射装置も併用しました。患部に刺したファイバーの先から赤色光を出すことができるので、少し深い位置のがんにも光を届けることができます」(同)
赤色光の照射機器も国内では初めて治療に使われたため、抗体薬と同時に機器の臨床試験も実施し、安全性を確認したという。