光免疫療法の治験が進む国立がん研究センター東病院(撮影/熊谷わこ)
光免疫療法の治験が進む国立がん研究センター東病院(撮影/熊谷わこ)
がん光免疫療法の仕組み(AERA 2019年3月11日号より)
がん光免疫療法の仕組み(AERA 2019年3月11日号より)
【国立がん研究センター東病院副院長】土井俊彦医師/消化管内科のほか、希少がんセンターの診療を担当。先端医療開発センター・新薬臨床開発分野長を兼任し、新たな治療法の開発や臨床試験の調整に取り組んでいる(写真:国立がん研究センター東病院提供)
【国立がん研究センター東病院副院長】土井俊彦医師/消化管内科のほか、希少がんセンターの診療を担当。先端医療開発センター・新薬臨床開発分野長を兼任し、新たな治療法の開発や臨床試験の調整に取り組んでいる(写真:国立がん研究センター東病院提供)

 つらい副作用をイメージするがん治療で大きな注目を集めているのが「光免疫療法」だ。転移予防や根治の決定打となる「夢の治療法」になり得るのか。治験は続く。

【図を見る】がん光免疫療法の仕組みはこちら

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 まず、従来のがん治療について説明しておこう。肺がんや大腸がんなどの「固形がん」は早期であれば、できた臓器内にとどまっているが、進行すると周囲にしみ出るように広がっていく。原発巣からこぼれ落ちたがん細胞は、血管やリンパ管に侵入。体のあちこちに飛び火して、新たな転移巣をつくってしまう。

 がんが臓器内にとどまっている場合には、がんを含めた組織を手術で取り除いたり、放射線で破壊する「局所療法」が行われる。一方、血液やリンパの流れに乗って広がった目に見えないがん細胞には、「全身療法」として抗がん剤や分子標的薬などの薬物を投与する。

 局所療法も全身療法も、がん細胞だけでなく、正常な細胞へも影響する。いかに正常な細胞を傷つけずに、がん細胞だけにダメージを与えるか──。この課題を解決するために、さまざまな研究が重ねられてきた。

 そこで新たに開発が進み、注目されているのが「光免疫療法」だ。光を利用してがん細胞だけをピンポイントで破壊する治療法で、米国立保健研究所(NIH)主任研究員の小林久隆医師が考案した。局所のがんをたたくだけでなく、全身療法としても期待されている。また楽天の三木谷浩史会長兼社長が、画期的な治療として開発をバックアップしていることでも注目を集めている。

 食道がんや胃がんなどいくつかのがんでは、がん細胞の表面に「EGFR(上皮成長因子受容体)」というタンパク質が現れることがわかっている。光免疫療法は、EGFRにくっつく性質を持つ「抗体」を利用。その抗体に、赤色光という特殊な光で反応を起こす化学物質の「光感受性物質」を結合させた新しい薬剤を作る。

 この薬剤を点滴で体内に注入すると、抗体はがん細胞膜上のEGFRにくっつく。そこをめがけて体の外から赤色光を当てると、光感受性物質が化学反応を起こして変形し、がんの細胞膜が破壊される。

 赤色光は、テレビのリモコンの信号などに使われる目に見えない光だ。人体への害はほとんどなく、安全に治療できる。

 アメリカで再発した頭頸部がん患者を対象におこなわれた臨床試験では、15例のうち14例はがんが30%以上縮小し、さらに7例は画像上確認できないほどになった。

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