俳優、映画監督、「移動映画館」の主催など、多彩に活動する斎藤工がシンガポールと日本を結ぶ映画に主演した。二つの国の味と人をめぐる旅で見つけたものは──。
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斎藤工(37)が演じるのは、日本で父のラーメン店を手伝う真人。父の死をきっかけに、彼は亡きシンガポール人の母の味「バクテー」を追ってシンガポールへと旅立つ。劇中のおいしそうな料理も見どころのひとつだ。
「実際、出てくる料理はどれもおいしく僕も食事のシーンは本当に素でリアクションしています(笑)。真人の料理シーンもポーズではなく、ちゃんとおいしいものを提供したかったので、撮影前に自分でも調理をして、いろんな人に食べてもらったりしました」
監督はシンガポール生まれのエリック・クー。
「最初に『1テイクでいきたい』と言われたんです。僕は自分の映画もほぼ1テイクで撮るんです。何度も繰り返すと『うまみ』が逃げていく気がして。準備してきたことを崩すことでもあるので勇気がいるけれど、でも最初に宿るなにかに、僕は真の生々しさを見ることが多い。エリックの現場はまさにそういう瞬間を切り取るもので、共感できました」
松田聖子との共演も話題だ。
「やはり聖子さんは圧倒的な存在。僕のなかでは『“松田聖子”を意識せずに演じられるか?』が課題でもありました。でも聖子さんの第一声を聞いたとき、その声とそこから放たれる成分に心が包まれるような感覚になった。今回、聖子さんの役は僕の喪失を救ってくれる存在でもあるので、『ああ、この人になら心を委ねてしまうな』と実感できて、自然に演じられた。聖子さんのおかげですね」
二つの国の食と家族をつなぐストーリーの背景には、両国の悲しい歴史も描かれる。
「第2次世界大戦中、統治下のシンガポールで日本軍が何をしたか。日本の教育ではほぼ触れられていません。彼らはその歴史を踏まえた上で、僕ら日本人を受け入れてくれている。それを知らなかったことをとても恥ずかしく感じました。でも、それを埋めるものが映画でもある。僕にとっても大きな意味を持つプロジェクトになりました」