記者会見で陳謝した根本匠厚労相。過去の過少給付を解決する見通しは立っていない (c)朝日新聞社
記者会見で陳謝した根本匠厚労相。過去の過少給付を解決する見通しは立っていない (c)朝日新聞社

 厚生労働省の統計が歪められていた問題が、個人への給付にも影響している。 自ら動かなければ取り戻せない可能性があるが、見返りはわずかだ。

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「齟齬があるという認識はあったが、東京都は数が多く例外的であると考え自己満足していた」

「変えた方が良いと思ったが、統計委員会とか審議会にかけると問題があると思った」

 厚生労働省の特別監察委員会が22日に公表した中間報告書に並ぶ厚生労働省職員の言葉には責任感の欠如と甘さが強くにじむ。そんな中、不正は15年にわたり続けられてきた。

 不正があったのは、厚生労働省が毎月、賃金の動向などを調べて発表する「毎月勤労統計」だ。従業員500人以上の事業所は全て調べるルールだが、厚労省は2004年から東京都分の約1400事業所のうち、約3分の1を抽出して調べていた。

 政府の有識者委員なども歴任した中央大学経済学部の伊藤伸介教授(経済統計学)は話す。

「毎月勤労統計は政策立案にも影響する政府の基幹統計の一つです。全数調査と抽出調査でどのくらい差が出るのかについて事前に徹底した検証が必要ですが、それが行われた様子もないように思われます。統計の専門的な技術を持った人材の育成が必要ではないかと感じます」

 抽出調査にしたことで賃金が比較的高い大規模事業所の調査数が減り、平均賃金が実際より低い結果になっていた。雇用保険や労災保険などの給付水準はこの平均賃金を元に決めるため給付額も低くなり、延べ約2015万人が過少給付になっていることが発覚。雇用調整助成金などの事業主向け助成金でも延べ約30万件に上っている。

 根本匠厚労相は24日、現在これらの給付を受けている人については、3月から6月に不足分を追加給付する考えを示した。

 問題は、過去に給付を受けた人だ。厚労省は今後、個別に手紙で追加給付を知らせる方針だが、「確認に時間がかかる」として時期は示せていない。これらの手続きには、不足分以外に人件費やシステム改修費など約200億円がかかる見通しだ。

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