稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
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ちなみに我が家のタオルはこの2枚。冷静に考えれば、私が生きていくのにはこれで必要十分だった(写真:本人提供)
ちなみに我が家のタオルはこの2枚。冷静に考えれば、私が生きていくのにはこれで必要十分だった(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 正月に実家に帰省して痛感したのは、モノは放っておけばいつの間にやら増殖するということです。「ため込もう」などという意識とは関係なく、アメーバが細胞分裂を繰り返すがごとく際限なく増えていく。

 たとえば、タオル。実家の風呂場の脱衣所で、収納棚からあふれ出て周囲のカゴに積み上げられている各種タオルの海を目撃し、なんとか整理しようと格闘。ようやく棚に詰め込んでホッとして、じゃあ拭き掃除でもするかと洗面台下の収納扉を開けたら、なんとその中にもあふれんばかりのタオルが詰まっていて思わず笑ってしまいました。

 もちろん父は、タオルを集めるのが趣味でもなんでもない。しかし、わかるよお父さん! タオルってちょっと使ったくらいじゃそうそう破れたりしない。だから捨てるタイミングがないんだよね。そうこうするうちに景品だのお歳暮だので頂いたりして、つまりはかなり意識的に頻繁に処分しないと永遠に増え続けることになる。

 こうしてタオルの海に埋もれて暮らす高齢者は父だけではないはずです。タオルだけじゃない。メモ帳、洗剤、レジ袋……人の一生では使い切れぬ量のモノたちがいつの間にかワラワラ集まってくる。つまりモノ余りの現代においては、油断していたらモノはひたすら増え続け、しかし出て行かない。

 つまり我々は「あれが欲しいこれが欲しい」などと言ってる場合じゃないのです。「出す」ことにこそエネルギーと情熱を注がねば、使わぬモノで家はパンパンになり身動きが取れなくなっていく。誠にやっかい。

 しかしものは考えようです。手に入れようと思えばお金がいるが、手放すのはタダです。しかも知恵と勇気と実行力がいる。つまりは手放すとは、誰もができる非常に創造的な行為です。頭を柔らかくして、アイデアを絞り、体も動かさねばただ一枚のタオルとて心置きなく手放すことはできません。つまりは手放すって「生きる」ことそのものです。深く。真剣に。そして楽しく。

AERA 2019年1月28日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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