ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
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(c)朝日新聞社
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

【現役を引退した元横綱・稀勢の里】

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 横綱稀勢の里がついに引退を決めました。大好きな力士だっただけに非常に残念です。

 カープファンであるワタクシにとって、この横綱は何かとカープと同じ雰囲気を持っていて、それも大好きな理由の一つです。それは「ここ一番で勝負弱い」ということ。

 入門の時から才能に恵まれほんとはとっくに横綱になる実力があった。ただ、結局横綱になったのはかなり遅く、それはここぞと勝負がかかった時に負けてしまうから。

 今年こそ、と思いCSでこけたり、史上最強と言われつつも自慢の足で自滅して日本シリーズで負けてしまったり、とにかくここで勝っていれば……という所で負ける。勝負弱いもいいところのカープ。それでもその必死さにファンは心を打たれ、また元気をもらっていくのです。

 稀勢の里のこれまでの戦いは苦労の連続のように見えます。何度もはね返され、最後の最後に横綱になった時には致命的なけがを負ってしまうという、本当に悲運としか言いようがない。これだけ勝負弱いのに、これだけファンが多いのはそういう点にファンがシンパシーを持って見ているからだろう、と思います。

 ビジネスでも人生でも、実は簡単なことの方が少ない。100回やっても成功するのはせいぜい1、2回。どんなに頑張ってもここ一番で負けてしまえばその先はかなわない。それでも前に進まなければならない。思わず自分自身の人生を重ねてしまう。稀勢の里という横綱に人気がある理由がわかります。

 個人的には横綱になったとき、あの大けがでしたから、即引退してもおかしくなかったと思います。それで十分でしょう。でも彼は休場を重ねながらも、自分に与えられた責任と世の中の期待に応えようと必死で頑張った。横綱の地位が軽くなった……的な批判が出ていますが、一体何を考えているのか。横綱の責任を痛感していたからこそ、ここまで2年間頑張ってきた人に向かってよくそんなことが言えたもんだな。そういう人に限って無責任な人生を送っているに違いないと思います(特に某産経新聞の記者)。

 大相撲はいの一番に「外国人労働者」を受け入れた市場で、今や連日の満員御礼。まさに外国人受け入れの大成功例です。強い外国人力士が出世を重ねる中、稀勢の里のような典型的古典的日本人力士がその中でも頑張る。こういう状況が他の労働市場でもどんどん出てくるでしょう。ますますつらいこともあり、外国人労働者との軋轢(あつれき)も増えるに違いありません。しかし、その度に稀勢の里を思い出すことになるのではないでしょうか。

 勝負弱い、しかし絶対物事を投げず最後まで全うする。その姿は感動を呼び、自分自身の励みになるはずだと思っています。お疲れさまでした。

AERA 2019年1月28日号