栗山英樹監督
栗山英樹監督

 WBCで侍ジャパンを世界一に導いた栗山英樹監督(61)が日本ハム監督時代の2019年に出した著書、『栗山ノート』(光文社)が異例の増刷となった。品切れする書店が相次ぐなど、大きな反響を呼んでいる。書き続けた「野球ノート」の内容を抜粋したものだが、読書家の栗山さんが、古典や先人がのこした言葉をヒントに、組織づくりや人を伸ばすために必要なこと、逆境に向き合う心構えなどを記している。読者の心をもつかむ栗山さん。指導者としての魅力や、その「思考力」の原点はどこにあるのか。

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『栗山ノート』には、論語をはじめとする中国の古典「四書五経」や先人の言葉が紹介されている。栗山さんが日本ハムの監督時代に大切にしていたこと、直面した出来事にどう向き合ったかなどが記され、組織づくりや選手を育てるヒントが網羅されている。

 例えば中国の儒学者・呂新吾の「深沈厚重」という言葉。

《頭が切れて雄弁であるよりも、無口でどっしり落ち着いている人の方がいい》

《自分の評価、評判、噂などを気にすると人間は集中力を欠いてしまいます。(中略)自分の進むべき道を、ひたむきに真っ直ぐ歩いている選手が成功をつかんでいる》

 栗山さんは「自分は無口ではない」としつつも、選手として、また指導者としての実績がないまま日本ハムの監督に就任した時に受けた批判について回想する。投手一本がいい、いや野手に専念だ、などとあれこれ言われながらも大谷翔平の二刀流起用を貫いた。まさに「深沈厚重」である。「自分の進むべき道を、ひたむきに~」は、大谷の野球に対する姿勢そのものだ。

 WBC優勝効果もあって、今、この本が売れに売れている。

「なによりも目を引くのは、栗山さんの『学び続ける姿勢』だと思います。指導者として、最も大切なことをずっと続けられている。勝負師の指南書と言いますか、学ぶところが非常に多いです」

 こう語るのは、びわこ成蹊スポーツ大学の望月聡教授(コーチング理論と実践)。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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