彼は日本の指導者たちに、こんな言葉を投げかけた。

「選手の邪魔をするな」

 日本人はまじめだ。指導者は手取り足取り、選手に「一から十」のすべてを教えようとしていた。その何がいけないのか、望月さんも、コーチの言葉の意味が最初は理解できなかった。

「指導者に必要なのは、その選手のストロングポイントを見極め、それを伸ばすこと。ところが、日本の指導者は全てを教えようとして、逆に選手の成長に足かせをしてしまっていることに気づかされました。栗山さんは、いい意味でのびのびやらせているように見えます。だからこそ、選手は自分が信頼されていると感じ、結果、栗山さんを信頼する。WBCでの戦いぶりや、栗山さんと選手たちが発した言葉を思い返すと、『信頼』というものにつながっていくように感じますよね」

 スポーツの指導者だけではなく、組織のリーダーや、地域や家庭でリーダー的な役割を担う人にも通じるであろう“栗山メソッド”。指導者として悩み抜く中でノートに残した言葉の数々はシンプルでいて、深みがある。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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