ノートにも、実は大きな役割がある。
『栗山ノート』では、12年に日本ハムの監督に就任してから必ずノートを開くようにしているとしつつ、こうつづっている
《練習でも試合でも、実に様々なことが起こります。私自身が気づくこと、選手やスタッフに気づかされることは本当に多い。つまり書くべきことは多い》
《ところが、ノートを開いてもすぐには手が動かず、白いページをずっと見つめたり、部屋の天井を見上げたりすることがあります。(中略)反省点は数多くありますから、とにかく書き出していきます。書き出すことで頭が整理されるものの、理想と現実の狭間で揺れる気持ちはなおも落ち着かず、気が付けば窓の外が明るんでくることもあります》
世界と戦ってきた望月さんは、指導者としての苦しみを知る立場だ。いい指導をする。戦いに勝つ。選手たちの能力を伸ばす。指導者たちは四六時中、そうした難題を考え抜き、時に深い悩みを抱える。
頭の中だけでは限界がやってくる。頭の中にあることをノートに書きだしたり、後から見返すことで、やるべきことや何をしたいのかが整理されていく。見返しながら自分の「慢心」に気づき、初心に立ち返るときもあると望月さんは話す。
「栗山さんも、多くの古典などを読み込んでノートに書き出して、さらにそれをそぎ落としていくという作業を繰り返した結果、大切な言葉だけが残ったのでしょう。だからこそシンプルで伝わりやすい、それでいて本質をついた言葉がノートに残っている。その言葉を指導に生かすことができるのが栗山さんの素晴らしいところだと思います」
さらに『栗山ノート』からは、栗山さんが持つ、指導者としての重要な姿勢が見えてくるという。それは、「選手に、価値観の押し付けをしていないことです」と望月さんは語る。
望月さんが現役を引退し、指導者に転じた30年ほど前のこと。日本の指導者たちが、海外の強豪国のコーチから指導法を学ぶ機会があった。