「でも、アウトプットの言葉ばかりを要求していた。講演を聞いて、それではダメだということに気づかされました」

 小学2年の娘と参加していた40代の女性は、自身が言葉に対して苦手意識があり、娘とのコミュニケーションも不足しているように感じていたことから講演に興味を持った。「表現力」は、いま最も関心のあるテーマの一つだ。それは、教育の現場でも「なぜ?」を問われることが多くなってきたという自身の経験にも基づく。

「授業参観に行くと、先生方に『お母さんはどう思いますか?』と聞かれることもあるんです」

「講演会にいらっしゃる方のなかにも、言葉に出すことが苦手、という大人は多い」と梅田さんは言う。だが、耳に心地よい言葉を口にできることが良いことなのか、と問われたらそれは違う。表面的な伝え方のスキルだけを磨くということは、頭のなかで考えていないことと同じだと思うからだ。

「自分の中にある言葉をちゃんと認識できているか、それを適切に表現できるか。大切なのは“内なる言葉”であり、頭のなかで使っている言葉と外へ向かう言葉を接続させてみる。その順番で考えてみると、意外とうまくいくんです」

 子どもをプレゼン上手にしたい、という親の声を聞くこともあるが、「他者ありきのプレゼンではなく、“自分の思い”を前提にしたプレゼンであるべき」と考える。梅田さんは言う。

「人がいるから何かを言うわけではなく、自分の中に何があるか。子どもの頃から、思いを反芻させながら適切な言葉に変えていけるよう導く。それこそが大切なことだと思う」
 
気持ちを表現するための語彙を増やすために、親ができることもある、と梅田さんは考えている。たとえば、夜、寝る前。子どもと一緒に一日の振り返りをする。子どもが発した言葉に対して、リフレーズしてみる。

 子どもは何となく言葉を発していることもある。「ここが面白かったんだね、その面白いって、ほかの言葉だとどういう感じだろう」。リフレーズすることにより、子どもの頭のなかにすっと入っていくようになる。

「どんな言葉が出てきたのかをきちんとつかみとってあげる。自分の中から出てきた言葉は、読書などで得た語彙力などと比べると、自分にとって使いやすい言葉だと思う」(梅田さん)

 その意識は、大人にとっても大切なことだ。(ライター・古谷ゆう子)

※AERA 2018年12月17号より抜粋

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