せめて子どもには豊かな発想力を。親としては、次世代に希望をつなぎたい。今、子どもを対象にした思考・表現力を磨こうというイベントが大人気だ。
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11月のある週末。小学1~3年生の子どもを持つ保護者約100人が集い、話し手の言葉に熱心に耳を傾けていた。マイクを手にしていたのは、コピーライターの梅田悟司さん(39)。著書の『「言葉にできる」は武器になる。』『気持ちを「言葉にできる」魔法のノート』は累計30万部を超えるベストセラーとなり、以来、講演依頼が絶えない。この日のテーマは「表現力を高める、思考力の鍛え方」。
「言葉には2種類ある。コミュニケーションを取るために外へ向かう言葉と、“内なる言葉”。皆さんの頭のなかにある言葉をもっと意識してみてほしい」
梅田さんの言葉に、参加者たちのメモを取る手が止まらない。
子どものためのワークショップと保護者に向けた講演会を企画する、ダヴィンチマスターズの主催者によると、「言葉」をテーマに講演会を行うのは、昨年イベントをスタートさせて以来、初めてのこと。タイプの異なる三つの講演会を用意したが、事前申し込みをした先着100人が全員、梅田さんの講演を選択したことに、驚きを隠せずにいた。
「表現力と思考力」というテーマはなぜ、こんなにも親たちを惹(ひ)きつけるのか。
講演会に参加した、小学3年の娘を持つ山田勝彦さんは二つの理由を挙げた。一つは、自身の仕事を通じて、表現力の大切さを痛感していた、ということ。山田さんは、製薬会社で開発を担当する。何を目的に何をつくり、どう患者に届けるのか。
「社内でのコミュニケーションというだけでなく、何かを形づくるためのツールとして表現力がある。日々そんなことを考えていたので、娘にも鍛えてほしいな、と思っていました」
以前は、営業を担当。年間30回、40回もプレゼンを行っており、短時間でいかに相手に届く言葉で伝えられるかが勝負だと感じていた。グローバル企業に勤めていることもあり、娘にはどんな国の人を前にしても、自分をきちんと伝えられる人になってほしいという思いもある。
もう一つの理由。それは、かねて娘の語彙(ごい)の少なさが気がかりだった、ということだ。
「家で娘と会話をしようとしても、だいたい『分からない』と言われて終わってしまう。言葉のキャッチボールができていないんですね」
言葉は大切だ、と幼いころから伝えてきたつもりだった。