現在東京オペラシティで個展を開催中の建築家、田根剛さんがAERAに登場。建築の過去と未来について、その想いを聞いた。
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「自分のイメージ通りになるかどうかに興味はなくて、最後まで考え続けたい」。
開催中の個展では、オープン直前の深夜まで展示を作り込んだ。
エストニア国立博物館のコンペに優勝したのは、26歳の頃。負の遺産だった軍用滑走路に注目したとき、「建築は場所の記憶を未来につなぐことができる」という、いまのコンセプトが生まれた。
博物館の完成までに10年。完成直後の館長の言葉が忘れられない。
「エストニアには旧ソ連の支配を受け、重く苦しい民族の歴史があった。この博物館ができて、その重荷から解き放たれ、自分たちの未来ができた」
意図して広く設けたパブリックスペースでは、週末ごとに音楽祭やパーティーが行われる。かつてに比べ、エストニアの人々の表情が明るくなったという。
「うれしいな、と。建築は未来をつくることができると改めて実感できたんです」
華やかな経歴だが、素顔は温和な好青年。わかりやすい言葉で話すのは、海外で活動する中で「言葉に苦労してきたから」。仕事は独断専行ではなく、チームプレーがしっくりくるという。
現在、2カ所で開催中の個展は、これまで建築家として考えてきたことの集大成。壁面を埋め尽くすイメージは、その場所で過去に起こったこと、いま起きていることを集めては読み解いた思索の痕跡だ。膨大な情報が、直観的に飛躍するバネになる。
新国立競技場のコンペで最終選考に残り、斬新な発想で注目された「古墳スタジアム」もその賜物だ。高校時代はサッカーに明け暮れ、ユースチームにも所属していた。サッカーの聖地だからこそ、自分で作りたいと情熱をかけて臨んだプロジェクトだけに、落選は「外苑前を通ると、いまだに悔しいんです」と笑った。
(編集部・熊澤志保)
※AERA 2018年11月26日号