16年には羽角さんら移住エンジニアが地元の飲食店と日本酒飲み比べイベントを企画。合宿して専用アプリも開発し、盛り上がった(写真:松江市提供)
16年には羽角さんら移住エンジニアが地元の飲食店と日本酒飲み比べイベントを企画。合宿して専用アプリも開発し、盛り上がった(写真:松江市提供)
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 ITエンジニアの間で「聖地」と呼ばれる街がある。松江市だ。市内には過去10年余りでIT企業約40社が進出。毎年20 人近いエンジニアが移り住み、インドやベトナムから就職する技術者も増えている。

 人口20万の山陰の地方都市はいかにして「聖地」となったのか。発端は2005年。同市の能海広明・産業経済部長(現副市長)は偶然読んだ雑誌を握りしめ、松浦正敬市長の部屋に駆け込んだ。

「市長、松江にすごい人が住んでいます!」

「すごい人」とは、まつもとゆきひろ氏。世界的に広く使われているプログラミング言語Ruby(ルビー)の開発者だ。同氏を紹介する記事の片隅に、「松江市内在住」とあった。その頃、市は初めての人口減少に直面し、その対策に頭を悩ませていた。能海さんは市長に訴えた。

「『Rubyの聖地』で一点突破しましょう」

 それから10年余りたった今。「松江の最大の魅力」となっているのは、企業の枠を超えて繋(つな)がれる「コミュニティー」の存在だ。拠点となっているのは市が06年に開設した「松江オープンソースラボ」。誰もが自由に勉強会を開いたり、有志でプロジェクトに取り組んだりでき、そこにRubyの父、まつもと氏も気軽に顔を出す。

「エンジニアの皆さんは成長できる場があるかどうかを何より重視する。田舎に行くと言うと仕事もスローダウンするイメージですが、松江は逆。成長のアクセルを思いっきり踏めます。『都落ち』なんて言わせません」

 同市で企業誘致やエンジニアの移住支援を担当する土江健二さんはそう力を込める。実は、彼のようなITに強い職員が育っていることも、松江の強み。移住エンジニアたちをつなぐ「ハブ」になっているのだ。

 東京から14年に移住してきたアプリ開発会社モンスター・ラボの羽角均さん(43)は言う。

「彼らは僕たち以上に東京のIT業界にネットワークを構築し、最新動向も知っている。有名なエンジニアを紹介してくれることさえあります。いま他の自治体でもIT人材を呼び込もうとしていますが、松江の職員レベルには、そうそう追いつけないでしょう」

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