「就活ルールをなくすことの悪影響を経団連はわかっています。とはいえ、今はルールを守っている企業が損をしている。解禁時期を改め、ルール違反の抜け道にも対処して、実効性ある規制を定めようという提言に思えます」(海老原さん)

 だが、別の見方もある。中西会長は会見で、新卒一括採用や終身雇用を前提とした雇用慣行にも疑問を呈した。人事コンサルタントの城繁幸さんは言う。

「中西会長や大企業には、新興企業や外資にエリート層の学生を持っていかれる焦りがある。グローバル化が進むなかで、年功賃金に代表される日本型雇用では優秀な人材を確保できません。就活ルールの廃止で、日本型の雇用形態に変化をもたらそうとしているのだと思います」

 一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻の小野浩教授も、就活ルール廃止が日本企業の競争力を高めるという立場だ。

「学生は多様化しています。いまや卒業時期は3月に限りませんし、外国人留学生や外国の大学を卒業する日本人学生も増えています。一方、企業は変わっていない。採用の柔軟性を高めて入り口を増やさない限り、企業は競争力を失います」

 小野教授によると、日本企業では社内から人材を調達する「内部労働市場」が発展してきた。それを支えるのが、新卒一括採用、企業内訓練、年功賃金、終身雇用などの日本型雇用制度だ。

「大企業の幹部に、硬直化した今の労働市場を支持する人はいません。就活ルールを廃止することの帰結として、人材は流動化し、雇用制度は柔軟化の方向に向かうはずです」(小野教授)

 形骸化したルールを維持するのか、自由化するのか。いずれにせよ、混乱の影響を受けるのは学生たちだ。廃止された場合、「1期生」となる見込みの都内の女子大生(19)は言う。

「どちらでもいいけれど、はっきりしてほしいですね」

(編集部・川口穣)

AERA 2018年9月17日号

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