関根教授は、大都市特有の雨水の流水経路が主に「道路」「下水道」「都市河川」に集約される点に着目。この3要素のデータに加え、建物の密集度や土地の利用状況を含む都市インフラに関する数値情報をすべて入力し、それぞれが与える影響を忠実に反映させたプログラムを開発した。その上で、過去の降雨データを入力して得られた被害予測と、実際に起きた被害の状況を照合し、プログラムの精度検証も重ね、都心部のどの地点にどの程度の浸水リスクが潜んでいるかを浮き彫りにした。関根教授は言う。

「住民の信頼を得るためにも検証は極めて重要ですが、都が公表している洪水ハザードマップは必ずしも十分検証できていなかったり、科学的な意味で厳密に積み上げられた計算でなかったりする部分もあります」

 都の洪水ハザードマップは、河川の氾濫に伴う「想定される最高浸水深」が10~20メートルと予測するエリアもある(表参照)。しかし、関根教授の分析結果によると、過去最大級のゲリラ豪雨に見舞われた場合でも、浸水深が1メートルを超えると予測された地点はあるが、これを大幅に超える浸水被害は起きない、と判断している。

 関根教授は荒川周辺地域を例にこう説明する。

「長時間の降雨に見舞われる台風性豪雨によって荒川の堤防が決壊するほどの水害を想定した場合、『海抜ゼロメートル地帯』の墨田、江東、葛飾、江戸川の4区のほぼ全域が危機的状況に見舞われるリスクはあります。しかし、河川の氾濫を伴わない短時間の集中豪雨に限定すれば、4区のリスクは他区と大差はありません」

「水害」といっても、河川上流部を含む広範囲で数日にわたって降り続く雨と、短時間に局地的降雨に見舞われるゲリラ豪雨を想定した場合では、浸水予測の結果は異なる、というわけだ。

 ただ、荒川の東側の葛飾、江戸川両区のエリアはほとんど高低差のない平坦な地形のため、ゲリラ豪雨でも他地域と比べ浸水のリスクは多少高いという。

(編集部・渡辺豪、中島晶子)

AERA 2018年9月10日号より抜粋

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